
自然と語らい王道の味目指す
「日本酒造りとは自然との語らい」。松川村の甍(いらか)酒蔵の杜氏で専務の田中勝巳さん(59)はこう言う。山や森、水など、求めほれ込んだ理想の自然環境。北アルプスの有明山の麓に昨年、新蔵を建設した「日本で一番新しい酒蔵」だ。
蔵のある松川村の水は、県内でも有数の超軟水。その水と同村産の米で酒を仕込む。ゆっくりと発酵し、味わいが整いながら仕上がっていくため、味もぶれない。目指すのは、米のうまみと、こうじの複雑味が掛け合わさった日本酒の「王道」の味だ。
県内の酒蔵に生まれた。自然の成り行きで酒業界に興味を持ち、大学卒業後はワイン関係の会社で10年間、営業を経験。その後、実家の酒蔵に入り約30年間、酒造り一筋に腕を磨いた大ベテランだ。
酒蔵生まれだからこそ、こだわる酒造りがある。歴史が長い実家の酒蔵はかつて、身近な田んぼの米と、近くの井戸水を使った酒造りをしていた。
このため、「古来から日本にある飲み物として、日本の文化、酒造りの伝統を守っていきたい」という思いが強く、それを具現化するため、この土地を選んだ。
そして今は、北アルプスの雪解け水と、その清らかな水で育った蔵から半径5キロ以内の田んぼで収穫された米を使用し、丁寧に醸す。本来の酒造りの在り方を実践。「原点回帰」という。
海外に向け、日本酒の魅力を伝えたいと意気込む一方、地元の人たちに味わってもらいたいと、「松川村限定酒」も販売している。
「甍」は屋根の一番高い所を指す。「日本の屋根」といわれる北アルプスの恵みを受け、てっぺんを目指しながら酒造りの伝統を守る。
【沿革】
いらかしゅぞう 前身の山清酒造(筑北村)は1665(寛文5)年創業。2021年、食文化全般の研究開発などをする金沢市の会社にいた佐藤圭祐さんが同酒蔵を事業承継。23年、田中さんとともに甍酒蔵を立ち上げた。
【田中さんおすすめこの1本】
甍・銀黒
(720ミリリットル2600円)
【相性のいい料理】
酒かすの入った豚汁やしゃぶしゃぶなど
【連絡先】
甍酒蔵TEL0261・85・5092