
塩尻市を拠点に半世紀近くジャズを演奏してきた社会人ビッグバンドがある。「ソー ナイス オーケストラ」(塩原玉基代表)。40~70歳代の団員19人は今、まつもと市民芸術館(松本市深志3)で来月9日に開催する第36回定期コンサートに向けた練習に余念がない。
質の高い演奏で、懐かしいスタンダードナンバーから最近のポップスまで、豊富なレパートリーをこなす。9日もジャズ風にアレンジしたディズニー映画の名曲を交えて演奏し、幅広い世代が楽しめるステージにする。
古参団員らは「歴史だけでなく、よそのバンドとの交流も長い」と話す。その交流は町おこし事業の核となり、若い演奏家の成長を助けている。息の長い活動を続けるバンドの、ジャズに懸ける情熱を取材した。
ジャズを愛する次世代育成も
社会人ビッグバンド「ソー ナイス オーケストラ」は、塩尻高校(現塩尻志学館高)OBによる社会人バンドが前身。本格的にジャズに取り組もうと、現在のバンド名に変更。1977(昭和52)年に旗揚げコンサートを塩尻、松本両市で開いた。
トランペット担当の塩原玉基代表(70、塩尻市広丘郷原)は結成メンバーの一人だ。松本県ケ丘高から神奈川県内の大学に進学。学生バンドに所属し、ジャズに浸った。
卒業後、故郷塩尻に戻り、会社勤めの傍らソーナイスで演奏した。「結成以来、意欲と技量のあるジャズマンが次々とソーナイスに来てくれたので、今日まで演奏の質を維持することができ、欠員もほぼ出なかった」
各地のイベントにも招待される。その一つに、茅野市の横内中央公園で毎年7月に行われる「ユーアイタウン共栄会サマーフェスティバル」がある。初回は2002年。今では多くのジャズバンドが顔をそろえる夏の野外音楽祭として定着した。
主催する同共栄会副会長の野明長美さん(78)は「ソーナイスはいつも人気。他のバンドに出演を呼びかけてもくれました。おかげでフェスタは地域の看板行事になった」と感謝する。
欠員を抱えるバンドの演奏会にソーナイスの団員が応援出演する機会も多い。その理由を、トランペットの鶴木延幸さん(67、松本市白板)は「私たちはどんな楽譜でもこなせるし、先方のスタイルに合わせた演奏やアドリブ(即興)演奏もできる。だから声がかかるのでしょう」と説明する。
「ジャズの裾野を広げたい。進学などで長野県を出ても、やがては戻り、長野県のどこかで演奏してもらいたい」(塩原さん)と、次世代の育成にも熱心だ。松本市などの中高生が集まる「ザビッグバンドオブミュージックトイズ」には、アルトサックスの関英雄さん(69、同市両島)が約15年間指導に出向いている。
関さんは「ジャズには年齢もキャリアも関係ない。子どもたちと演奏を楽しみながら、一生ジャズを愛してほしいと伝えている」と語る。その姿勢にミュージックトイズ団長の後藤浩輔さん(55)は「関さんは演奏技術はもちろん、人間性が素晴らしい」と尊敬の念を隠さない。
来月9日のコンサートでは、ディズニーの音楽のほか、「想(おも)い出のサンフランシスコ」「ミスティ」など、ジャズの名曲を中心に14曲を演奏する。塩原さんは「最も大事にしているステージ。ビッグバンドの魅力を存分にお届けする」と話す。午後3時半開場、4時開演。入場料千円(高校生以下無料)。