
松本市の松本城近くで、キャンドルスクール&ショップ「te ao te po(テ アオ テ ポ)」を2020年9月から営んでいた片岡由梨香さん。昨年、株式会社夜々(よよ)を設立し、スクール「蝋燭(ろうそく)の学び舎(や)te ao te po」を運営、新ブランド「蝋燭夜々」の作家としても新たな一歩を踏み出した。
日々の暮らしの中で得たインスピレーションを作品に表現。出身地・四国との縁から制作を始めた和ろうそく、養蜂家の多い信州の蜂蜜を使い蜜ろう作品などを作る。SNSで発信する片岡さんの世界観に魅了される人は多く、生徒は中国、台湾からも訪れる。
生活に息づく物や歴史のある物が好きという片岡さん。1月に拠点を大手2の古いビルに移し、ろうと向き合う。
松本に合う「和ろうそく」を
新たなキャンドルブランド「蝋燭夜々」の代表的な作品となった「和ろうそく」は、片岡由梨香さんが昨年から制作を始めた。出合いは松本に移住する前。歩いて四国88寺を巡るお遍路の途中、偶然、木蝋(もくろう)資料館(愛媛県内子町)を見つけ、かつて四国は、ろうの生産が盛んだったこと、ウルシ科のハゼの実から作る和ろうそくの材料「櫨蝋(はぜろう)」がなくなりつつあることなどを知った。
「和ろうそく」は櫨蝋のほか、芯に灯芯草というイグサの仲間や和紙、蚕の繭などを使う。全て日本にあり、土に返る物だ。
松本に来て、古道具を暮らしの中に取り入れている人が多いと感じた。「すてきなことだと思う」と片岡さん。この場所に合う「和ろうそく」を作りたいと動き出した。
生産者が少なく学べる場所はない。ハゼの生産者を九州で、芯の生産者を奈良県で見つけ、時間がある時に訪ねては歴史や現状を聞き、知識を深めた。
偶然見つけたワークショップで作り方を学び、研さんを積んだ。昨年、芯にろうを手で塗り重ねる「手掛け」の技法を身に付け、製品化。「蝋燭の学び舎te ao te po」でも教えるようになった。
プロ目指す人の知識や活動支援
和ろうそくは炎が大きい。芯が太く、中が空洞のため空気の対流があるからだ。しっかりろうが燃えて「ろう垂れ」せず、すすが出ない。色付けをする顔料も、草などを煮詰めて自ら作っている。
和ろうそく以外にも、パラフィン、ジェル、パームなど、さまざまなワックスでろうそくを作る。それぞれの特徴を熟知し、使い方に合った素材やデザインを考える。
例えば、2022年から「日本のウユニ塩湖」として知られる香川県の父母ケ浜(ちちぶがはま)で、毎年5月に開かれる「キャンドルナイト」で使うキャンドルを作る場合。海を汚さないように直径を大きくし、溶けたろうが垂れないように設計している。
コロナ禍の間は家で過ごす時間が長くなり、自己流でキャンドルを作る人が増えた。学び舎では、これまでの体験レッスンなどに加えて、本格的に学びたい人、仕事にしたい人のためのプロフェッショナルコースを作った。そこで学んだ人たちが所属できる「アジアキャンドルプロフェッショナル協会」を設立し、代表理事の一人に就任。知識と活動のサポートをしていく。
「夜々」の屋号には「ろうそくをともすのは夜。人それぞれの夜に寄り添いたい」との思いを込めた。「『使うのがもったいない』と飾っておく人もいるが、使ってこそ意味がある。ろうそくは物だが、喜びや悲しみに寄り添う時間を過ごすための物だから」
移転した大手2の新しい拠点は、「松本へ還元したい」と、空いている時間をワークショップなどで使えるレンタルスペースとして貸し出す。1時間3300円(税、冷暖房費込み)。物販などは1日単位で3万8500円。空いていればスクール部屋との2部屋使用にも対応する。詳細はインスタグラム=こちら。