「信州学生U・Iターンプロジェクト」 県内企業の魅力を仕事ツアーでPR

報酬伴う仕事で両者にメリット

高い県外大学への進学率、Uターン就職率の低迷と、若者の県外流出率は高い。さらに、SNS(交流サイト)などメディアの多様化により、県内企業を知ってもらう機会も減っている。そんな状況を打破しようと昨年12月、合同会社「信州学生U・Iターンプロジェクト」(松本市波田)が発足した。
ツアーを実施し、学生に企業を見てもらうだけでは、人材が集まりにくい。それなら「学生にメリットを用意すればいいのでは」という案が浮上。ツアー参加を「仕事」と位置づけ、報酬を支払うことにした。
受け入れ企業側も、自社の魅力のPRや、学生の生の声に触れることができ、採用活動をより良くできる。13日の初ツアーで、企業、学生の反応は。

「知らない企業」選択の幅広げて

合同会社「信州学生U・Iターンプロジェクト」が13日に開催した、初の企業見学アルバイト。松本大サッカー部の2、3年生約40人が参加した。同大をバスで出発、東新工業(本社横浜市)松本工場(松本市和田)、コヤマ(長野市)を回り、同大に戻り、ヤマウラ(駒ケ根市)の説明を聞いた。
電子部品の貴金属めっき加工業の東新工業では、社の概要や仕事内容、勤務形態などの説明を聞き、4班に分かれて工場見学などをした。総務課の浅原翔平さん(34)は「(取引先が)企業相手の生造業なので、知らない人も多い。今回は名前を知ってもらういい機会になった」。
3年生の金子玲於(れお)さん(21、原村)は「県内で育ったが、知らない企業があった。不動産の営業を考えているので、今回のツアーはとても参考になった。勤務する人の声を聞き、働く楽しさを感じることもできた」。
少子化に加え、大学進学を機に県外へ出たままになるケースも多く、県内企業を志す若者が多いとは言い難い。同プロジェクト代表の岡田一也さん(47)は「Uターン就職率も低い状況」と語る。地元企業の人事を担当したこともあるプロジェクトメンバーの一人も「年々応募者が減っていた」と振り返る。
合同会社のルーツは、企業の一部門としての文字通り「プロジェクト」だった。地元の企業を知ってもらい、U・Iターン就職につなげようと4年前にスタート。帰省時期に合わせ東京などからバスを出し、途中で企業を見学する「0円バス」を運行した。帰省する際の交通費を支給する試みにも挑戦した。
見合う利益が出ないなどの理由で企業は撤退したが、「学生、企業、地域のために」という思いは残り、合同会社(出資者と経営者が同じ会社)をつくることに。「会社や仕事に興味を持つ学生が増えれば、地方の企業にとって大きなメリットになる。学生も選択の幅が広がる」。では、学生が地元企業に足を運ぶにはどうしたらいいのか|。
出た結論が「報酬を伴う仕事」として位置づけることだ。「仕事ならアンケートを忖度(そんたく)なく書くことができる。企業はアンケートを参考に、魅力を感じる採用活動を企画できる」と岡田さん。参加企業から集めたお金でバスをチャーター、学生の報酬(1日9千円)を支払う。
プロジェクトスタッフの一人は、大阪の大学を出て大企業に就職。だが、学歴序列などに違和感を抱き、松本市にUターン。想像していたよりも、地元に魅力的な企業が多いことに気付いた。「学生時代に知っていれば、キャリア選択の幅も広がった。若者が活躍できる場も実は多いはず」
0円バス参加などをきっかけに、インターンシップに参加した学生も出た。「県内企業のイメージが変わった」「県内での就職は考えていなかったが、県内企業もいいなと思った」|。アンケートの回答を見ると、双方にとってメリットがありそうだ。
若者が増えれば企業も、そして地域も元気になる|。プロジェクトメンバーは、そんな思いで頑張っている。
ツアーは19日も実施。25、26日も予定している。同プロジェクト℡080・7393・2602