[創商見聞] No.105 美容室「Kiitos 」 (盛合 充世)

継承マイファミリースタイル

【もりあい・みつよ】45歳、大町市大町出身。真野美容専門学校卒。吉沢理美容館勤務を経て2023年2月創業。

美容室 Kiitos (キートス)

大町市大町町3847-3 ☎0261-85-5006

―美容師ファミリー
 大町市で1903(明治36)年創業の吉沢理美容館の次女として生まれました。現オーナーの父は3代目で、122年続く大町の老舗美容館です。4きょうだいで兄、姉、弟と私、全員が理美容や美容の資格を持っています。
 兄は店を継承し、姉は週末に手伝っています。弟は、自分と同じように創業しました。誰も両親から家業継承を打診されたことはなく、やりたいことをやりなさいと言われ続けました。でも、高校の時、改めてお父さんもお母さんも楽しそうに仕事をしていると感じ、スタイリストになりたいと決意しました。
―観察とイメージ
 県内の専門学校へ行く選択肢もありましたが、最前線を見たかったので、東京の学校に行きました。
 元々帰郷計画はありましたが、卒業後は、都内のヘアサロンで働きました。有名サロンの渋谷店や銀座店でした。銀座店は4丁目にあり、大会社や大手銀行などに勤める女性が多く、いろんなことを学べました。
 常に〝観察眼〟ができたというか。街で見かけたあの人の髪形がいいから、あのお客さんに合うかも…、あのネイルは別のお客さんに…など、いつもシミュレーションするようになりました。今でもイメージしながら考え続けています。
 東京で7年間仕事をしましたが、充実し恵まれていたと思います。技術的な教育も、組織的にも良かったです。
 ただ、1日60人も対応するのは、自分に合っていないと感じ始めました。スタイリストがカットして、カラーやセットはアシスタントが対応するような都会的作業ではなく、一人一人顔や名前を覚え、丁寧にカットしたい。
 育った大町の風土かもしれませんが、地元では赤ちゃんから七五三だけでなく、中学や高校、成人式までお付き合いが続いたり、おじいちゃん、おばあちゃんもカットして、そのお孫さんの結婚式などへ―。 
 髪を切ることは、単なる仕事かもしれません。でも、人生の大切なシーンに立ち会えることが喜びなんだ、という考えに行き着きました。
―帰郷から創業
 2006年、26歳の時に帰郷し、実家の店で働き始めました。結婚や出産などもありましたが16年間働きました。
 きょうだいにも家族ができたことや、兄が店を引き継ぐことにもなったので、そろそろ良いかもと考え、創業計画を22年前半くらいから考え始めました。父に相談すると、「いずれそうなると思ってた。分かれていく方がうれしい」と話してくれて、計画が進み始めました。
 現在の店舗の土地を紹介してもらった後、大町商工会議所に、経営相談に行きました。市の補助金の活用など創業計画をサポートしてもらい、年2月にオープンしました。
 サロンとして非現実的な空間を提供したかったので、お店は自宅から10分くらいの距離ですが、完全に分離させました。
 この店に来て良かったと感じてほしい。自分へのご褒美にできる場所になれたらと思い、特別感を出したかったので、メインデザインは北欧をベースにしました。理想的に仕上げてくれた工務店さんなどにはとても感謝しています。 
 鏡台は3面セットにし、シャンプーのブースやネイルサロン、着付けやキッズブースもセパレートにしましたが、個室にはしていません。
 コミュニティーをつくりたいというか、お客さんとお客さんが会話する場面が昔から好きで、知り合って楽しい話に膨らんでいってほしいからです。同じ一日でも、お店に来て髪を切ることがとても有意義に感じるようなサロンにしていきたいです。
 ただ、やっぱり1人で3人のカットを同時にするのは大変な時があります。オープンして1年ちょっと。元々顧客もあったので大きな経営計画のずれはありません。組織というと大げさですが、もう1人、人員を増やせればと思っています。
―ひとり朝礼
 朝の引き締まった短い時間が好きです。朝礼がある所で育ちました。父もやっているし、東京のお店でもやっていたので、やらないと違和感があります。
 現在は一人の店舗ですが、朝礼では「来てくれたお客さまが少しでもワクワクして帰ってもらえますように」と神棚にお願いしています。父の朝礼と同じ形式で、自分も毎日実践しています。
 お店の名前「Kiitos(キートス)」はフィンランド語で〝ありがとう〟という意味で父の口癖です。
 「ありがとうを言い続けたらいいことがある」。と教えてくれました。82歳になりましたが、今もお店で仕事をしています。 
 少し離れたからこそ、父が大事にしていることが深く響き、学びとなりました。店名や朝礼など、あらゆる場面に反映させ、これからも日々丁寧にやっていきたいです。
(聞き書き・田中信太郎)