楽しさ求め発信スタジオ付き宿 今夏塩尻にオープン

人が集まり盛り上がれる場を

ラジオ番組が収録できて、泊まれる─。全国的にも珍しい施設の名は「宿とスタジオKICHI」。今夏、塩尻市にできる。
造るのは移住6年目の湯浅章太郎さん(43)、亜木さん(37)夫妻。イベントの企画・運営などを手がける傍ら、インターネット配信の音声メディア、ポッドキャストの番組を制作し、塩尻の情報や暮らしぶりを発信している。地方と都市をつなぐ中で、リアルに人が集まれる拠点が欲しくなっていた。
1年ほど前、元自転車店の物件に出合ってひらめいた。開放的な1階をスタジオ、2階は宿泊施設に。小さなイベントも開く─。
仲間の助けを借りて計画は進む。「通過点ではなく目的地にしたい」と2人。塩尻を訪れる新たな理由の提案だ。

移住して6年目塩尻ならやれる

湯浅章太郎さんも亜木さんも東京育ち。塩尻市はもちろん、信州のどことも縁がなかった。宿泊業の経営経験もない。
2019年が最初の画期だった。人材派遣会社で地方創生イベントを担当していた章太郎さんが、独立。東京と塩尻市贄川のシェアハウス「宿場noie坂勘(しゅくばのいえさかかん)」との2拠点生活を始めた。自然の景色、互いに気遣う近所付き合いに「こういう暮らしもいい」。人生の選択肢が増えた。
同じ頃、亜木さんと知り合った。大手不動産会社で働いていた亜木さん。それまで塩尻は知らなかったが、坂勘は居心地が良かった。「つまらない自分だと思っていたが、そのままでいい、というのがうれしかった」
翌年、結婚して塩尻で暮らし始めた。イベントの企画や運営、発信などの仕事をし、21年に2人で合同会社カサネルを立ち上げた。
23年、2度目の画期を迎えた。ポッドキャストだ。個人で配信できるインターネットラジオで、いわば音声版ユーチューブ。リスナーとして楽しんでいた章太郎さんが、動画の経験を生かし制作。亜木さんも出演した。
番組名は「ローカルナイトニッポン」。買い物事情、消防団、野外イベント…。塩尻をメインに話題を拾い、ざっくばらんに話し続けると、県内外に知り合いの輪が広がった。
ポッドキャストの特長を、章太郎さんは「ローカル発の不利がない。動画ほど出来の良しあしがはっきりせず、最後まで聴いてくれる人の割合が大きい」と分析する。
関わりが深まると、塩尻市街地の寂しいところ、足りない部分も見えてきた。「人が集まって盛り上がれる場所をつくれば、街にいい影響を与えられる」と章太郎さん。
活動を模索する中で、同市大門八番町の元自転車店だった建物に出合った。2人の脳裏にゲストハウス、それもスタジオ付きのイメージが浮かんだ。
遊んで泊まれて、ラジオ番組も作れる─。「塩尻でだったらやれる、助けてくれると思った」と亜木さん。「楽しい、面白いというポジティブさを起点に、何とかしようという人が多いから」。6年で醸成された土地柄への信頼感が背中を押した。
「モヤモヤしている人、何かやりたい人が来て、作戦を練る、相談できる場に育てたい」と章太郎さん。その場で完成せずとも、きっかけは手に入る|。そんな目的地もいい。

KICHIは、1階がガラス張りスタジオとイベントスペース、2階が3部屋(10人弱収容)の宿泊施設。7月開業に向け、クラウドファンディングで工事費の支援を募っている=こちらから。