“塩尻の銘菓”クランポン創業70周年 地元密着生き残りへ

ワインカステラを主力にPR

家庭での茶菓子に、信州の土産に、昭和の頃から親しまれてきた洋菓子製造販売の「クランポン」(塩尻市広丘堅石)が、創業70周年を迎えた。
弁当などの製造販売をしていた「カワカミ」が、洋菓子販売と喫茶を兼ねた店として、同市大門に開いたのが始まりだ。親しみやすく、どこか懐かしい店名の「クランポン」は、宮澤賢治の作品にちなんでいる。
地元密着の菓子店として、時代の波にもまれながら、「手作りの味」を守ってきた。多くの市民が、同店の菓子にまつわる思い出を持っているのではないか。
同店が今、力を入れるのが、地元産ワインを使った「ワインカステラ」。塩尻の名物に育て、地域に貢献する会社を目指し歩み続ける。

宮澤賢治作品のクラムボンから

「70周年大創業祭」(4月5日まで)を開催中の「クランポン」。焼き菓子の甘い香りが漂う店内には、「ワインカステラ」や「初恋の林檎(りんご)パイ」、甘じょっぱい味やカレー味などがある「欧風おかき」と、さまざまな菓子が並ぶ。
店先には“看板娘”の「信濃むすめ」が。大正ロマンの香り漂うはかま姿の女性が、リンゴの花を手にしているイラストで、名前とデザインは商標登録済みだ。
塩尻市内から訪れた50代女性は「小さい頃からよく食べていたし、県外の人にも贈ると喜ばれる“塩尻の銘菓”です」。辰野町の80代女性は「塩尻に来た時は必ず買って帰る。8人の孫もクランポンのお菓子が大好き」。東京都在住の70代女性は「知人に菓子をもらい、気になって来店した。懐かしい雰囲気がいいですね」。
主力のワインカステラは、店舗裏で一つずつ手作りしている。製造部で40年来働く同市の60代の女性は「お客さんに信頼して買ってもらいたい一心で焼いている。『おいしい』と言われると、自分のことのようにうれしい」と話す。
同店は1954(昭和29)年、市内で弁当を製造販売していた「カワカミ」の、菓子部門として設立された。「クランポン」は、宮澤賢治の「やまなし」という散文詩にちなむ。作品では、2匹のカニの子どもが水の底で話す「クラムボンはわらったよ」「クラムボンはかぷかぷわらったよ」「クラムボンははねてわらったよ」|などと続く。
宮澤賢治の作品が好きだった「カワカミ」社長の川上睦水さん(故人)がこのフレーズにヒントを得て命名。開店当時は「くらんぽん」と平仮名だったという。
82(昭和57)年には中南信地方を中心に16店舗を展開したが、その後、経営母体がソフト開発企業や飲食サービス業などに移り、2009(平成21)年に現在の社長・山﨑弘志さん(66)が経営者となった。
「地域で長く続いてきた店を、終わらせたくなかった」と振り返る山﨑社長。飲食サービス業の従業員だった当時、会社からクランポンの事業撤退の手続き担当を命じられ、自身が独立して引き継ぐことを決意。店舗は市内2店だけにし、商品はスーパーの銘店コーナーに卸すなど、経営再建に取り組んだ。
デコレーションケーキなどの製造をやめ、地域特産のワインを用いたカステラに注力。「ヴァン・プレミエ・アムール」(ワインの初恋)シリーズとして十数種類を開発した。中でも70周年を記念した「ゴールド」は、市内の井筒ワイン(宗賀)のたる熟成高級ワインを使用している。
経営会社が幾つか変わっても、創業時のレシピを残してきたことが、強みになっている。先行きは決して甘くないが、山﨑社長は「長年、親しんでくださっているお客さんを大切にしたい」。今後に向けては「塩尻産ワインがとてもおいしくなっている。県内外にPRできるよう、ワインカステラを有名にしたい」と話す。