
急坂が多く、高齢者が歩いて移動するには苦労する松本市白板地区の放光寺町会。同町会は、こうした「交通弱者」が元気に外出し、心身共に健康を保ってもらおうと、タクシーによる移動支援を行っている。その周知のために始めた「茶話会」がまた、にぎわっているという。タクシーの利用も増え、茶話会も盛況。町会が住民の健康増進などのために始めた取り組みが、好循環を生んでいる。
「いいぞ、いいぞ!」「あ~、惜しい!」。2月中旬、茶話会が開かれた放光寺公民館。なんだか楽しそうな声が外まで聞こえてきた。この日の茶話会では「スクエアボッチャ大会」を開催。2チームに分かれて対戦する通常の「ボッチャ」に対し、「スクエアボッチャ」は、4チーム対抗でプレー。参加者のほとんどが、ボッチャ初体験だったが、笑顔を見せながら熱戦を繰り広げた。
毎月1回開かれる茶話会は、高齢者を中心に20~30人が参加するなど、同町会の人気行事。春は桜、秋は紅葉を楽しみ、かるた大会やおはぎ作り体験をするなど内容は盛りだくさんだ。
そして、この茶話会の会場に訪れる多くの人たちの「移動の足」として利用されているのが同町会独自で行っている移動支援制度「お互いさまタクシー」だ。
「お互いさまタクシー」は、放光寺公民館から半径3キロ圏内の利用が可能。利用者自らタクシーを呼び、運賃は1回千円。それを超えた分は、タクシーチケットで支払い、後で町会が負担する仕組みだ。
足や腰が痛むという神谷スズコさん(86)は、お隣さんと乗り合わせ、毎回このタクシーで公民館まで来ている。「地域の人とお話しできる茶話会を毎月楽しみにしている。安心して来られるのもタクシー送迎があるおかげ」と感謝する。
同町会は城山、蟻ケ崎の一部からなり、約300世帯(約700人)で構成。65歳以上が全体の34%を占める。町会の面積が広く、急坂も多い地域で、車の免許を返納した高齢者らが移動に苦労。こうした状況から2020年、町会内に移動支援推進委員会を設け、対応策を協議。21年3月から「お互いさまタクシー」制度を施行している。
同タクシーの利用者は、4年間で延べ3千人を超え、徐々に増加。制度の周知を目的に始めた茶話会は、今月で37回目を迎える。
同委員会事務局長の藤田正雄さん(71)は「移動手段がないと家に閉じこもり、フレイル(要介護の手前の状態)の原因にもなる。免許の返納を悩む人はまず、このタクシーを試してもらいたい」と話す。