
安曇野市の潮沢(うしおざわ)(明科東川手)の柏尾(かしお)集落に300年以上続く「風神(かざかみ)祭り」。わら人形を作り、息を吹きかけ災いを人形に移し、無病息災を願う─といったユニークな祭りだ。
春彼岸の中日に開かれ、今年は3月20日。会場の大日堂には約70人が集まり、舞も初めて奉納された。
昔は潮沢のあちこちで行われていたというが、高齢化、人口減少でなくなり、柏尾集落に唯一残る。同集落でも2011年に中断したが、継承を望む有志により、翌年復活した。
復活当初、参加者は10人以下だった。地元の人や団体の協力で、年々にぎやかに。復活に尽力し、祭りの実行委員長を務める唐澤良英さん(75、明科中川手)は「祭りを多くの人に知ってもらいたい。くじけず頑張っていく」と意気込む。
一度途絶えた祭り 復活と継承
安曇野市明科東川手、柏尾集落の風神祭り。彼岸中日の20日、集落内にある大日堂にわら人形を持った人が集まってくる。人形は高さ約50センチ。男はちょんまげ、女は三つ編みで、障子紙の衣装をまとう。背中には「風」の文字。その下に名前や願い事が書かれている。障子紙に描かれた顔は、一体一体違う。両手をしばり、米の入ったおひねりを持つ姿は共通だ。
人形は一度お堂に預け、その前で念仏を唱えると、おひねりに神の魂が宿るという。それを交換し、中の米を家で食べると一年中無病息災でいられるという。その後、わら人形に息を吹きかけて厄を移し、堂の西側の崖側に並べて立てる。
2011年に一度途絶えた風神祭り。「親から子へ、孫へと伝わってきた祭りを風化させるのはもったいない」と、翌年復活させた功労者は、祭り実行委員長を務める唐澤良英さんだ。
唐澤さんは46歳の時、潮沢を離れ明科中川手に引っ越した。祭りの中止を知り、「村人が無病息災、家内安全を願い、大切に祭りを続け、神仏を守ってきた。忘れてはいけない」と声を上げ、復活に向け活動を始めた。
地元の人たちや、NPO法人「安曇野ふるさとづくり応援団」も協力。12年に復活した時、参加者は10人以下と寂しかったが、翌年から増え、今年は70人が参加した。
今回、初めて舞を奉納、300年以上続く祭りに新しい歴史を刻んだ。舞踏家の岡佐和香さん(東京都)が「古代の巫女(みこ)のイメージ。風になって舞う」と創作したオリジナル。雅楽の笙(しょう)を演奏する石川高さんの曲に合わせて披露した。
岡さんと紙芝居作家の濱重俊さん(79、松本市蟻ケ崎3)が、大日堂近くの鬼首大明神に詣でた際、偶然、唐澤さんと出会ったことが、舞の奉納につながったという。
潮沢地区に住む平林千代さん(66)は、孫の髙林直杜さん(9、岡谷市)と共に祭りの場を訪れた。「数年前から来ている。いいお祭りなので、続いていったらいい」
高齢化、過疎など逆風は多い。だが、「“はあるか(長く)続いてきた祭り”を、自分たちの代で終わらせてはいけない」と唐澤さん。風を通して神を感じる、貴重な場だ。