
「25歳の時、親が行方不明に」「働き過ぎて心が折れちゃったんです」「その場その場で転々とする人生。今も生き方模索中です」
テーブルを囲み座った松川村民3人がサイコロを振り、出目に振り分けた話題について、実体験を交えながらおしゃべりする。ありのままのトークが、インターネット音声配信サービス「ポッドキャスト」の番組として配信されている。
国の統計などによると、県内の20歳未満の自殺死亡率(人口10万人当たり)は全国平均を大きく上回る。悩む若者へのアプローチの手法として、「心理的安心・安全が確保された対話の場を地域につくりたい」。村民有志に村外在住者も加わった団体、「サイコロアイランドプロジェクト」の取り組みを見た。
テーマは「大人も大きい子ども」
3月11日夜。松川村にあるゲストハウスとブックカフェ「深々books&stay」で、同村発のポッドキャスト番組「サイコロアイランド」の、2回目の収録があった。話し手は、保護司の草深国芳さん(72)、同店オーナー浅田茉美さん(34)、村地域おこし協力隊の岩崎泰子さん(36)。初対面同士だが、コーヒーを片手に脱線もしながら、和やかに「サイコロトーク」を繰り広げた。
前職や学生時代の失敗談、親や子どもとの関係性…。各分野で活躍する大人たちが、今だから話せる恥ずかしい失敗や体験も口にした。真面目なこと以外もたくさん考えていたり、若者とさほど変わらない考えもあったり。想定するリスナーは、中高生以上の若い世代。「大人も大きい子どもだよ!」が、トークを通じて表現したいテーマだ。
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「サイコロアイランドプロジェクト」の発端は、ある村民の声だった。身近な地域でも自ら命を絶つ、絶ちたいと考える若者がいるのに、何もできない無力感を感じている|という。これを地域の課題としてとらえる大人たちが、プロジェクト推進団体を立ち上げた。
心理的安心・安全が確保された対話の場を地域につくりたい|。山口大輔さん(42、同村)が代表を務め、地域デザイン会社Newtral.代表の松本寿治さん(42、同村地域おこし協力隊)ら村内外の有志ら10人ほどが参加。村の地域づくり活動活性化支援補助金も活用している。
だが、大人が面と向かって話を聞く場を設けても、悩んでいる若者たちが来るのだろうか。手法を模索する中で、中高生以上の若年層の利用率が高く、配信者との距離の近さを感じやすい、ポッドキャスト番組を制作、配信するアイデアが浮上した。
社会的立場のある大人が、予測不能な会話や失敗談などを素のままで語る。リスナーの若者が「いろんな大人がいる」と感じ、視野を広げ、「こういう大人に話してみようか」と思える変化を期待しての活動だ。メッセージや感想も受け付ける。
面白い番組を作ろうと、ポッドキャスト番組を運用する人や、オンラインコミュニティーに詳しい村外や県外の知人も誘い、オンラインも使ってプロジェクトを進める。話し手の人選やサイコロで出す話題はメンバーが考え、番組の編集や配信はポッドキャストクリエーターの前原誉宜さん(34、池田町地域おこし協力隊)が担当。昨年12月から配信を始めた。
トークは話し手を替えて3回収録済み。話し手の一人として出演した山口さんは、「トークを通じて、僕も閉塞(へいそく)的社会の中で生きていたんだと気付いた。多様性を認め合い、対話ができる地域になれば」。番組は「長野県のとある小さな村の住民が|」というアナウンスで始まる。前原さんは「どこの地域にも当てはまる。他の地域でも安心・安全な対話の場が生まれたら面白い」と話す。
番組の聴取はこちらから。