
歴史ある温泉街で、街並みにはレトロな建物が残る。「松本の奥座敷」といわれる松本市の浅間温泉地区で、合同会社SumSum(スムスム)代表の石川裕之さん(40)が、まちづくりに奮闘している。
昔ながらの“ボロアパート”を活用し、主に二つのシェアハウスを運営。テナントやコミュニティースペースなどを併せ持つ複合施設「ポルトマツモト浅三荘(あさみそう)」も開いた。
大学時代、浅間温泉の学生下宿で多くの時間を過ごした。だからこそ「学生文化や風情ある街並みを残したい」と望んでいる。シェアハウスの住人は移住者や学生が中心。「暮らしの中で街の魅力を感じてもらい、少しずつ波及させながら、浅間温泉や松本市を好きになってほしい」
街・人・地域 相乗効果を期待
合同会社SumSumの名は、「住む」ことが街にも人にも良くなる、という相乗効果を期待して付けた。
SumSum運営のシェアハウスの住人は、地域の祭りや町会活動への参加が必須。地域のつながりに重きを置く姿勢が鮮明だ。
2025年1月には昭和30年代建築の木賃(もくちん)アパートを修繕し、シェアハウスや店舗などを複合させた「ポルトマツモト浅三荘」を開業。現在、入居者やテナントを募集している。
石川さんの夢は「施設内でプチ浅間温泉の体現をすること」。暮らす、泊まる、食べる、訪れる、学ぶ―。「そんな場所になればいいな」
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石川さんと浅間温泉との出合いは大学時代。千葉県出身で信州大工学部建築学科に入学。最初の1年間は松本キャンパスで学ぶため、横田に住んだ。当時、浅間温泉には学生向けの下宿や食堂がたくさんあったため、友人やサークルのメンバーが多く住んでいて、よく通った。古き良き雰囲気があり、下宿ならではの学生同士の語らい、町会とのつながりなどが楽しく、魅了された。
長野市に3年住んだ後、松本市役所に就職。久しぶりに思い出の浅間温泉を訪れると、行きつけの食堂は閉店し、学生も減少。もの寂しさを感じた。
工学部では、「古民家を生かした街のコミュニティーの復活」をテーマに学ぶことが楽しかった。古民家も街の雰囲気も、なくなれば二度とつくれない|。「古民家とまちづくりを両立させた、街のシンボル的な場所をつくりたい」と起業、独立した。
住民や観光客が関われる場所に
2015年、戦後の学生下宿を使ったシェアハウス「篶竹(すずたけ)荘(そう)」を、20年に昭和期の古い置屋を使ったシェアハウス「ペンギン荘」をオープン。とても人が住めるような建物ではなかったが、二級建築士や宅地建物取引士の資格を持つ石川さんが、少しずつ修繕した。
浅間温泉は市街地にアクセスの良い温泉街で、大学も近い。「こんな環境は全国的にも珍しい」と石川さんは語る。「湯仲間ができたり、地域の人、住人同士が仲良くなったりすれば、暮らしはさらに楽しくなる」。学生時代に自身が味わったからこそ確信が持てる。浅間温泉でのSumSumの活動も、「地域の人々に愛されることが一番のベース。楽しい雰囲気を感じた地域住民や観光客同士が関われる場所にする」ことが目標だ。
「町会の担い手が高齢化でいなくなり、人口も減少傾向にある」と石川さん。だが、地域で暮らす楽しさを少しずつでも広げていくことができれば、その価値に多くの人が目を向けるようになる─。石川さんの大きな願いだ。問い合わせはメールsumsum.llc@gmail.com