
庭と手料理 歴史を伝える場に
江戸時代の庭園を眺めながら、丁寧に作られた料理を楽しんで─。松本市の特別名勝、百瀬家庭園(平田西1)を所有する百瀬徳子さん(75)が、多くの人に庭を見てほしいと昨年10月、自宅に「庭園お食事処(どころ)信楽(しがらき)」をオープンした。
庭を後世に伝えるだけでなく、だしを取ったり、旬の味覚を盛り込んだりなど、受け継がれてきた料理を次世代につなげたいという思いも強い。
食事は膳の形で提供する。蔵に眠っていたという大正時代を中心に江戸、明治時代などに作られた器に盛り付ける。徳子さんの長男で、同店の広報を担当する昌伸さん(46)は「見て、知ってもらうことで、いろいろな事や物を、伝えられるのではないか」と期待する。

庭を正面に臨み 旬の食材味わう
松本市特別名勝に指定されている百瀬家庭園の広さは約120坪(400平方メートル)。多くの石を立てて造られている珍しい庭で、枯(かれ)滝(たき)を二つ配している。遅くとも江戸時代後期には造られたと推定されるという。
この庭を眺めながら食事を楽しめる「庭園お食事処信楽」。座敷のふすまを取り払った20畳ほどのスペースで、庭を真正面に臨む場所だ。そこにテーブルを置き、16席を設けている。
切り盛りするのは、料理が大好きという百瀬徳子さん。「角煮御膳」「焼魚御膳」と、週替わりのメニューを提供する。主菜の他、ごま豆腐、サラダ、季節の小鉢3~4品、デザートなどが付いて1800円だ。
旬の食材を取り入れ、手間暇惜しまず料理している。「化学調味料はほとんど使わず、野菜中心で薄味に仕上げている」と百瀬さん。体と心に優しい料理で、中高年には懐かしい、若者には新鮮な味という。
百瀬さんはかつて、同市の縄手小路などで「ラーメン札幌」を経営。多くの人に愛されたが、母の介護もあり2015年、65歳で閉めた。その後母が亡くなって、接客業が好きだったこともあり、庭を多くの人に見てもらいたいと考えるように。「個人の家では見学しにくい。飲食店を開けば来てもらえるのではないか」
5年ほど前から考えていたが、コロナの影響で様子を見ることに。最近、長男の昌伸さんが経営するカフェ&バー空(くう)(松本市大手4)に客が戻ってきたことから、開店に踏み切った。「母の体調を考え、楽しく仕事をしながら家や庭を守るにはこのタイミングかなと思った」と昌伸さん。庭の維持にもつながればと考えている。
コンビニエンスストアで手軽に食事が手に入り、インスタントや冷凍の食品、風味調味料、ドレッシングなどがあふれる時代だ。女性の社会進出が当たり前となった今、そうした調味料などを使わず、一から手作りした料理を作ることが、家庭ではなかなか難しくなった。
昌伸さんは「私の子どもも母の料理をおいしいと喜ぶ。こうした料理を提供すれば、作り方などに興味を持ってもらえるのではないか。この店を、味を次世代につなぐきっかけにしたい」と力を込める。
江戸時代、百瀬さんの祖先が塩尻市の川から水を引いてせぎ(農業用水路)を造り、稲作ができるようにした功績もあるという。信楽が、そうした歴史を伝える場になればいいと願う。
木~日曜、午前11時~午後4時。TEL0263・57・2722。メニューなどはインスタグラムで。