
ものづくりの楽しさ糧に成長
わらで編んだ猫の寝床「猫つぐら」。丁寧な手仕事で作られ、猫ブームなどを背景に人気を集めている。作り手が減った小谷村では、伝統技術の伝承を目的に2017年から職人の養成講座が開かれ、意欲にあふれた職人が育ち、活動が広がりを見せている。
講座は村の取り組みで始まり、現在は受講生が主体で村が伴走しながら継続。技術が認められた受講生は職人認定を受け、同村のふるさと納税返礼品の猫つぐらを手がける。これまでに、村内外の約10人が認定された。
昨年から、講座で育った職人がワークショップを開くなどして裾野が広がり、本格的に技術習得を目指す受講生が増加。未経験から貪欲に技を学び、昨年度職人に認定された3人に、魅力を尋ねた。
「奥深さ」知り貪欲に技学ぶ
小谷村千国乙の可児好美さん(72)と、白馬村北城の中川美恵子さん(50)は、養成講座で育った職人の木村敏子さん(64、小谷村中土)が昨年2~4月に初めて開いた「猫つぐらづくりワークショップ(WS)」の参加が、職人への入り口になった。手先を動かすものづくりが好きなことや、猫の飼育経験などから興味をそそられ、WSに参加した。
職人でも、一つを仕上げるのに10日以上を費やす難しい手仕事だが、可児さんは「形になっていくのが楽しく、ご飯も忘れて没頭してしまう。猫が入っている姿を見るとかわいくてうれしい」と夢中になった。
WSで初作を完成させると「もう一回やりたい」。同年4月から養成講座に参加し、自宅でも練習を重ね、職人に認定された。「わらのひねり方一つとっても奥深い。まだまだ学ぶべき事がたくさん。緊張感を持ちながら細く長く続けたい」
中川さんは、WSで作った1作目が会心の出来で、手応えを感じた。わら細工に限らず職人への憧れがあり、迷わず養成講座へ。仕事の都合で月1回しか参加できないが、夜間や休日に自宅でこつこつと技を磨き、職人認定を受けた。
「思い通りにならないから、次はもっと美しく作りたい」。難しさを感じながらも向上心があふれる。「小谷に通って得られる学びや交流も楽しい。誰が見ても素晴らしいものを作りたい」と気を引き締める。
安曇野市穂高の矢口盛夫さん(68)は小谷村中土の出身。「形に見ほれた」。以前から猫つぐらが気になっていた。実家の片付けなどで同村を訪れた際に近所の木村さんから情報を得て、昨年6月ごろから講座に参加。わらの選別作業から教わった。
趣味で木工小物などを手がける。初めてのわら細工に当初は戸惑ったが、編み目をそろえるといったこつを徐々につかみ、周囲も絶賛する完成度で職人に認定された。
「子どもの頃に使ったみのなど、昔の人はわらの太い所から細い所までむだにせず、道具を手作りしていたことは、すごいと思う」。わら細工を始めたからこそ分かる驚きや発見を語る。「猫つぐらづくりを通じ、村を離れた今も小谷と関われるのがうれしい」
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職人養成講座の講師を務める細澤清文さん(84、同村北小谷)は、意欲ある職人が育っている現状を喜ぶ。「上達のこつは研究心。生徒の方が先を行っていて追いつけない」。人一倍の情熱を持ち活動する職人の木村さんは「代用品がたくさんある現代で、自然素材を生かしたものづくりの良さを共有できる人が増えるのは、うれしい」。受講生たちは16日、猫つぐらが村特産品として知られる栄村を訪れ、職人たちと交流。得た情報や刺激を糧に技術向上に励んでいる。活動の様子は=インスタグラムで発信している。
職人養成講座は、原則毎月第1、3水曜と月1回の土曜に猫つぐら、第2火曜にその他のわら細工に取り組む。村外からも参加可。詳細は村集落支援係℡0261・82・2589