
契約農家とうまい酒造り模索
大町市の中心部に蔵を構える白馬錦酒造。製造部部長で杜氏(とうじ)の松浦宏行さん(51)は石川県の造り酒屋で生まれ育った。大学までは法律家を目指していたが、日本酒のうまさ、良さに気付いて酒造りの道へ。縁あって入った今の蔵で、地元産を大切に酒を醸している。
石川県加賀市・山中温泉の、その名も松浦酒造に生まれた。創業1772(安永元)年の老舗は、しかし、四つ年上の兄が継ぐことが既定路線。蔵で遊びこそすれ、仕事を手伝うことはなかった。
中学は、家を出て寮生活。東京都立大で法を学び、司法試験を目指した。
ある時、実家から「手伝え」と声がかかった。試飲即売会で、客の「おいしい」の言葉に感動。「おいしくない」には、どうすれば「おいしい」になるかとつい考えた。
自身、勉学の後に一献傾け癒やしを得ていた。法の正義で人の役に立ちたかったが、酒でも幸せをもたらせる。「自分にできる素晴らしい仕事じゃないか」と省みて気付いた。
決意を父親は喜んだ。だが、実家では杜氏になれない。研修先で紹介されたのが、白馬錦の蔵だった。
信州に縁もゆかりもない。26歳になる秋、大町に来て「寒い。酒造りにはいい」と思った。「やらせてもらえるだけありがたい」と一冬ごと打ち込むうちに正社員に迎えられ、杜氏に登用された。
「大町の米作りの光景を守りたい」という当時の社長に共鳴し、契約農家と共にうまい酒造りを模索してきた。昨年の全国新酒鑑評会で、諦めかけていた金賞に輝いた。
食事と調和しておいしい酒を目指す。菓子会社の傘下に入り、スイーツも取り合わせの対象に。「探究は尽きない」とほほ笑む。
【沿革】
はくばにしきしゅぞう 1906(明治39)年創業。90年から、地元農家が作る酒米を使う地産地消に取り組み、2017年に原料の全量を大町産米にした。昨年3月、菓子製造販売などのシャトレーゼホールディングス(HD、甲府市)の子会社になり、8月に薄井商店から現社名へ変更した。
【松浦さんおすすめこの1本】
白馬錦純米吟醸(チングルマ)(720ミリリットル2200円)
【相性のいい料理】
コシアブラの天ぷら、ホタルイカとワカメのからしみそあえ
【連絡先】
白馬錦酒造TEL 0261・22・0007