
70歳以上の公募による美術展「老いるほど若くなる」が、松本市美術館(中央4)で開催中だ。MGプレスなど共催。2004年から始まり10回目で、今回で終了する。
今までは審査を経て入賞・入選した作品を展示したが、今年は規定を満たした全作品を展示。過去のグランプリ作品8点を含めた294点を並べた。
「年を重ねたからこそ描ける世界」を求めてきたが、20年を経た時代の変化や、同公募展の意義などを見直そうと、区切りをつけることになった。
20年間で計4654点が寄せられた。今年は30都道府県から応募があり、最高齢は98歳。家族、ペット、風景など、会場に並ぶ多彩な作品には、それぞれ思いや物語が込められている。松本市内の2人を訪ねた。
多彩な物語映した全294作品

松本市元町1の原元勝さん(90)は、油彩画「花」を出展。力強い筆致と複雑な色彩で躍動感あふれる美しさを表現した。「良い先生、良き仲間に恵まれ、絵が人生を豊かにしてくれた」と話す。
現在も自宅で制作を続け、年3回ほど公募展に出展。月2回は地元の絵画教室で指導する。「絵は没頭できるし、完成すると達成感や人に見てもらう楽しみもある」と原さん。「老いるほど若くなる」展には5回入選した。
子どもの頃から絵が好きで、成人後は松本市出身の画家・飯田福治さん(故人)に師事。建設設備関連会社を設立し、経営に携わりつつ絵画を続けた。
45歳の時に妻を病気で亡くし、喪失感を絵画へのエネルギーに変えた。「一水会」展や、フランスで約360年の伝統がある「ル・サロン」展など著名な公募展で入賞。松本で開いた「日仏現代作家展」の運営にも長年尽力し、県内外の美術団体役員も歴任した。
現在、絵画教室に開放しているアトリエには、小学生の時に描いた風景画や恩師の肖像画、受賞作品などが並ぶ。「『うまくなりたい』という目標が自分を動かしてくれた」と原さん。
松本市美術館友の会副会長を務めるなど、さまざまな形で同館の発展に貢献してきた。「住民がふらっと寄って興味を持ってもらえる、地元に愛される美術館になってほしい」と期待する。

松本市並柳の篠平たみ子さん(71)は、今回初出展。50歳で油彩画を始め「老いるほどー」展は目標の一つだった。対象年齢になるまであと何年ーと指折り数え、ようやく出展できる年になったら最終回。「最初で最後になってしまったけれど、美術館での展示はとてもうれしい」
出展作は「モネの庭(高知県北川村)」。フランスの画家クロード・モネが愛したジヴェルニーの庭をモデルにした高知県の庭園を訪れ、テーマにした。生き生きした色彩感がキャンバスにあふれる。
鹿児島県出身。夫の実家が辰野町という縁で、20年ほど前に松本市に移住。「せっかく景色の美しい、恵まれた土地に住んでいるから描いてみよう」と、画家・板橋順二さん(安曇野市穂高)の教室に通い始めた。
平日は行政書士の夫の仕事を手伝い、土曜日は教室へ。「思いがけない色が出たり、それを褒めてもらったりするのが楽しい」と篠平さん。仲間との交流も刺激になる。
松本市内のギャラリーに展示したり、絵画展で入賞したりしたことはあったが「老いるほど」展は特別な存在。終了は寂しいが、「これからも見たままの感動を表現できるような、“子どもの心”で描いていきたい」と話している。
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「老いるほど若くなる」美術展は6月1日まで、午前9時~午後5時。一般千円、大学生と70歳以上の松本市民は600円。月曜休館(5月5日は開館し7日休館)。同館TEL0263・39・7400