【ビジネスの明日】#72 ホテルあさひ館社長 酒井敏幸さん

「塩尻産ワイン」柱に誘客図る

「法事などで利用してくれる地元のお客さんを大切にしながら、新たな誘客策を見つけなければ」。こう語るのは、ホテルあさひ館(塩尻市大門八番町)の酒井敏幸社長(56)だ。コロナ禍が明けても客足がそれ以前の水準に戻らない現状を打破する起爆剤として目を付けているのは、塩尻産のワインという。新たな誘客策を模索する中で、常に頭の中にあったという塩尻産のワイン。「数日前から本格的に動き出したこと」と、前置きした上で明かしたのが「ワインバー構想」だ。
地元のワイナリーと協力して現在、ホテル内の朝食や昼食を提供しているスペースを、塩尻産のワインをそろえて、飲むことができる専門のバーにするという考えだ。
「塩尻は全国有数のワイン産地なのに、街中にその気配があまり感じられないし、うちもそうしてこなかった」と自戒。バーを開設すれば、それだけ消費量が増え、地の利を生かし、客が気に入ったワイナリーに気軽に足を運ぶこともでき、「ウインウインの関係になるのでは」と期待する。
こうした動きに同調するように、「インバウンド向けに塩尻のワインを使ったらどうか」や「民間でワインの催しを開催したら」といった提案ももらっているとし、「こういったありがたい縁をどうまとめ、実現させるかが私の役割」と気を引き締める。

2017年、国の事業承継・引継ぎ支援センターを通して同ホテルの事業を引き継ぎ、社長に就任。「創業120年という歴史を途切れさせてはいけないという思いで手を挙げた」と振り返る。
しかし、時はコロナ禍直前。停滞気味だった経営を進展させるため、新たにインバウンドをターゲットにしたり、地元客向けの営業を強化したりした結果、大きな成果が見込めるはずだったが、ほとんどキャンセルに。以後は、多くの事業者と同様に耐え忍ぶしかなかった。
「コロナによって日本の宴会文化のようなものが、がらっと変わってしまった。これは元に戻らない」と、現実を直視した上で、「それでも法事を中心に、忘新年会や歓送迎会などで使ってくれる地元のお客さんが基本ベース」の姿勢に変わりはない。
「塩尻産ワイン」を柱にして、今後に期待が持てる新たな動きが出始めている現状に、「とにかく人が動かないと。ここを多くの人に足を運んでもらう場所にしたい」。

さかい・としゆき
1969年、駒ケ根市出身。関西の大学に進学し、同じ地方の会社で働いた後、駒ケ根市に戻り、設備関係の会社に就職。2017年、あさひ館の事業を承継し社長就任。塩尻市在住。