
松本市立博物館(大手3)の特別展「信州の工芸―作り手たちの原点」が、6月9日まで開かれている。信州の工芸作家23人の熟練した技術だけでなく、作品に込めた思いや生き方にも触れてもらおうと企画。作者の原点となる初期の作品、もしくは技術の原点となる博物館収蔵の工芸品を対比させるユニークな手法で、約100点を展示している。
多彩なジャンルから23人紹介
ジャンルは木工、陶芸、漆芸、ガラス、彫金などさまざま。それぞれの作家の写真と自己紹介文も掲示する。各作家の「現在」を象徴する作品の隣には、「原点」をイメージさせる初期の作品や、その技術の原点といえる縄文時代からの収蔵品が整然と並ぶ。
漆芸作家の伊藤猛さん(塩尻市)は、長野冬季五輪の金メダルと制作工程の見本、若い頃に手がけた日本初の蒔絵(まきえ)時計を出展。金属に漆を塗る細やかな工程や技法の確立が見て取れる。
陶芸家の髙野榮太郎さん(松本市)の作品は、古墳時代の須恵器・土師(はじ)器と共に並ぶ。大昔と同様、釉薬(ゆうやく)を使わずまきを使って高温で長時間かけ焼く技法を追求、独特の色合いや質感にこだわる。
他にも、精緻な彫金技術を駆使した長井一馬さん(大町市)の櫛(くし)や金具と並んで、彫金が施されたかんざし。景色や文字をガラスに閉じ込めた作品(松原幸子さん作)と並列で、1800年代に発明された現代の写真の原型、湿板写真と松本城が写った乾板などの貴重なものも。
担当学芸員の本間花梨さんは、直接作家本人に聞き取りをして、制作や思いの根底にあるものを探り、収蔵品を選んだという。「博物館でないとできない展示。作品と収蔵品のコラボレーションをぜひ見てほしい」
松本市内各地で工芸品の展示販売などをする「工芸の五月」に合わせた企画。関連の展示のほか、会期中は「木の実の時計づくり」など親子で楽しめるワークショップ(要申し込み)や、作家によるギャラリートークも開催。詳細は同博物館ウェブサイトで。
【信州の工芸―作り手たちの原点―】 6月9日まで午前9時~午後5時、松本市立博物館。特別展の単独券は大人1000円、大学生600円、高校生以下と市内在住の70歳以上無料。火曜(祝日の場合は翌日)休み。同館TEL0263・32・0133