
メディシン・ウーマン、そう呼ばれている女性がいた。先月も登場したアラスカ・ユーコン川。その長大な川沿いにある村に、彼女は住んでいた。オードリーはグィッチンインディアンだ。何年かかけ、ようやく撮影させてもらうとき、彼女はムース(ヘラジカ)の解体をしていた。「男衆が狩りをし、女衆が解体や保存をしてきたのさ」。そう説明しながら見せてくれたのは、ムースの肩甲骨だった。
私たちは獲(と)った生き物を全部使うんだ、あらゆるパーツを無駄にはしない。最近はそうでもなくなってきたけどね。お前、これ、何に使うか分かるか?肩甲骨を前後に振りながらオードリーはそう聞いてきた。だしを取るとか、食べるために使うのかな?いや、メディシン(薬)ウーマンだから、削って粉薬にでもなるのかしら。そう思っていたが、答えはこうだった。「スープに入れることもあるけどね。次の狩りにこれを持っていくんだよ。これでそこらのヤナギを擦ると、ムースが角を擦るのと同じ音が出せる。匂いだって付けられる。そうして何時間、何日と待っているとオスのムースがそこに現れるんだ」。なるほど。
その知恵を誰から聞いたの?そう聞くと、少し目線を上げ、私のおじいちゃんは既にやっていたよ。と言った。彼女から聞いた話や、彼女のおいっ子から聞いた話は、どれも興味深いものだった。野生のようでいて、僕らよりも人間臭いアラスカネイティブのエピソードは、7月の写真展会場にも数点展示する予定だ。
(写真家、安曇野市在住)
佐藤大史さんがアラスカで撮影した写真展「北の光景」が、7月12~21日、松本市中央2の信毎メディアガーデンで開かれる。展示作品を本欄で紹介する。