
本質を考える力を身に付ける
多様化する中小企業、小規模事業所の経営支援を目的に、松本、大町、塩尻の各商工会議所は、「広域連携支援事業」を展開している。「創業・経営支援」を中心に、商工会議所と企業の取り組みを紹介する「創商見聞 クロスロード」を月1回掲載。第107回は、特別編「クロスロード クロスオーバー」と題し、4月24日に松本商工会議所で開かれた「次世代経営者塾報告会・フォローアップ座談会」をまとめた。次世代経営者塾は松本・大町・塩尻商工会議所が主催し、昨年6~12月にかけ全8回、延べ24時間にわたり、経営アドバイザーの瀬畑一茂さん(ReConnect)が塾頭を務め開かれた。5期目の同塾参加企業は16社。報告会当日は、4社と瀬畑さんが集い、塾が終了して半年たった現在の所感などを語った。
経営アドバイザー (同)ReConnect 塾頭 瀬畑 一茂

経営者の覚悟を形に
美鈴荘 奥田 賢さん
同じ乗鞍エリアで宿を営む「Richo」オーナーの藤江佑馬さんが、第4期で受講されていて、紹介してもらい学び始めました。父と母の家族経営でしたが、二人とも高齢。本格的に事業承継の時期が来たので、実践的に学びたかったし、自信を付けたくて受講しました。
毎週グループを変え話合い、いろんな企業の問題解決を目指す姿勢を目の当たりにできました。大きく分けて3回のグループセッションがありましたが、リーダーシップをとるだけでなく、分析に徹することや、アイデアを出すことなど、役割分担して取り組む場面も良かったです。
話し合いを深堀りしていく中で、業績が良いから問題がないわけではない、ということも分かりました。自分の会社と照らし合わせ、「これはやっていない」「こんなこともしなくては」など、問題点が見つかり、解決を目指そうと思いました。
実際、さまざまな企業の解決策が、生きた情報となって飛び交って、それぞれの企業へ落とし込んでいくシーンは、大きな学びとなりました。
5年後に事業承継したいという目標があります。そのために、塾を終えた半年で、経営者の覚悟を形にして固める気持ちでいました。そんな中、地元のスキー場が経営危機となり、今季営業しないこととなりました。そこでエリアの仲間で集って、支援金を集って営業しました。その中で実践が学べて、とても役に立ちました。
宿屋として単純にお客さんを泊めるのではなく、いろんなサービスをオールパッケージで提供できる宿屋にしたい、というのが現在の心境です。さまざまなアイデアが生まれ、経営者としての覚悟も固まってきました。

どうゴールを設定するか
産工営 輿 宏幸さん
ちょうど事業承継をしたタイミングで、松本商工会議所から育成塾を勧められました。研修は以前から好きだったので、興味もあって受講しました。
他の研修と決定的に違うのは、「ゴールありきの研修」ではなかった。他の研修や、勉強のために読む本でも、会社は、売上を拡大して規模を大きくしていくのが正解。そのためには何をして、こんなテクニックがあって…などのアプローチが多い。
しかしここでは、「そもそもゴールをどこに設定するか」から始まっていました。その視点はとても新鮮で納得でき、自分自身の心の中に落とし込めました。
グループディスカッションを多く進めてきましたが、実際に企業の数字をを開示してもらって、真剣に話せたことは大きい。数字開示は、気付きを得るためにも重要でした。当事者が感じる課題と外から見た課題が違うことや、考えたことがない事業を改めて考えてみたこと、新しいことを考えるプロセスを仲間と体験できたことにも、大きな価値がありました。
塾が終わって半年、改めてゴールを見つめ、自分がどこに向かいたいか見直しました。父親が作った会社だけれど、自分自身がやりたいことと、やるべきこと、請け負う仕事の種類も含め違いがあることが分かりました。
今後、自分のやりたいことのために、勇気を持って取捨選択する決断があると思います。
まずは、規模を拡大するよりも、少数精鋭で進め、やっていきたい業務が固まってきたら、会社の適正規模をどうするか考えていきたいです。

ザ・跡継ぎだけど
松本事業 伊藤 総一郎さん
祖父が創業し、父が2代目社長として実働しています。今後、跡継ぎとして事業承継していく予定だが、「そろそろかな」と感じ始めました。次世代として、どういう会社にするべきか、どういう形で地域に貢献していくか―。
明確なビジョンが必要と思い、経営塾で学べたらと思った。頭の中を整理したいとも考えて、通いました。多くの次世代経営者との交流は、単純に楽しかった。それだけでなく、基本をだいぶ学べた実感があります。
塾生の、利害関係なく純粋に学ぼうとする姿勢に感動した。塾だけでなく、実際に店舗に出向き、体験してくる仲間もいて驚きました。改めて自分が、「ザ・跡継ぎ」と感じました。引き継げば何とかなる、では駄目。
塾頭から「フレームワーク」を学べたことが大きい。目的達成や課題解決のために役立つ、思考の「枠組み」などのことですが、とても参考になりました。基礎的で当たり前のことが、自分に当てはめると全くできていないこともあった。本当に基本が大事と感じたし、頭の中も整理できてきました。
父とも何回か向き合って話ができました。今までやれなかったけれど、行動できた。
本業であるプロパンガスは、欠かせないものでとても大切。会社的には大きな変革は難しいことも十分理解している。ただ今後のことを考えると違う分野にも目を向けていきたい考えがある。現状の会社を大切にしながらも新しいチャレンジをしたいことなど話をしました。
自分の意思が大事であると塾頭や仲間から学べたので、考えを形にしていきたいです。
塾は時間も取られるし、かなり自分をさらけ出すので、恥ずかしい時もある。でも、食らいついていくと、成長も感じられます。6期の受講を検討される方がいたら、ぜひ参加してほしいです。

鎧兜すらかぶれない
グッドライフ 小泉 翔建さん
3期で受講された立石コーポレーションの立石宗一郎社長から、塾の話を何度も聞いていて、興味がありました。事業承継してから、会社が少し緩んで伸び悩んでいた時期で、状況を打破したい思いもあった。本拠地は岡谷市ですが、受講しました。
参加企業からとても多くの学びを得ることができました。表面だけでなく、かなり深い状況まで教えてもらい、自分には縁もなく勉強しなかったであろうことも知識として得られて、勉強になった。
自社を伝える難しさも学ぶことができた。自分では分かっているつもりで、このくらいで伝わるかなと話しても、かなりかけ離れた意図で解釈されることがあり、難しく感じた。振り返れば、融資を受ける際などの銀行への説明も、うまくできていなかったのかもしれない。
社長には、対外的に鎧兜を着けている印象があるけれど、ここではその兜すらかぶれない状態でした。だからこそ、仲間との信頼関係ができ、プラス面だけでなく、マイナス面も含めたフルオープンで経営に当たることを学べました。
現在、売り上げを10倍にしたい思いがあります。塾を通じて自分の感覚が変わり、リミッターが外れた。具体的に話すと、今までは会社を「残す」感覚でした。
事業承継した時は、債務もありとても大変でした。いろいろな協力があって助けられ、会社を守ることができた。でも今は、「守る感覚」が続き過ぎたと感じています。
改めて、会社に体力を付けたい。膨張は良くないけれど成長したい。売り上げを10倍にしたいと考えるようになったのは塾のおかげだと、間違いなく言えます。

学ぶ仲間の輪の広がり
塾頭コメント総括
塾頭 瀬畑 一茂さん
5期・5年間の開催を通じて、約75人の次世代経営者とセッションを重ねてきました。毎期、受講者の皆さんが目を見張るような成長する姿を見ることができて、うれしく思います。
今後も市場環境はますます急速に変化します。単なる座学ではなく、次世代型の経営に求められる「本質を考える力」、「視座を高め想定する力」、そして「実践する力」を身に付けることに重点を置き進めてきました。
自分で言葉の定義をすることも、大事にしてきました。一例を挙げると「問題と課題の違い」。問題は目の前の火を直ちに消す必要があること、課題は原因究明から課題解決に向けたトータルでの取り組みが必要があることと定義しました。
事例に対して、すぐ渦中に飛び込むのではなく、問題なのか課題なのか定義し、見極めてアプローチしていくことなども話してきました。
受講者の皆さんの成長はもちろん、本塾の受講を通じて、中信エリアで次世代経営の学びを継続する仲間とのコミュニティーの輪が着実に、力強く広がっていることにも感慨深く思っています。
予定している6期だけでなく、今後の開催を通じて、次世代型の経営を学ぶ仲間の輪が更に広がることを、楽しみにしています。(聞き書き・田中信太郎)