【講演会聞きどころ】元京都大工学部原子炉実験所助教・小出裕章さん(75、松本市)

塩尻市の「脱原発社会をめざす塩尻の会」は、元京都大原子炉実験所助教の小出裕章さん(75、松本市)の講演会を市内で開いた。「原発のない世界へ」などの著書がある小出さんが「福島原発の現状と私たちの課題」をテーマに話し、会員など66人が聞いた。(4月19日)

原発事故 今も収束見えない

1年間に広島型原爆千発分の死の灰(放射能のちり)を炉心にため込みながら運転を続ける原発は、事故が起きれば周辺の住民にとてつもない被害を及ぼす。私は1970年には「一刻も早く止めなければ」と考えるようになったが、力及ばず2011年3月11日に東京電力福島第一原発で破局的な事故が起きてしまった。
直後に国が発令した「原子力緊急事態宣言」は、14年たった今も解除されないまま。本来なら放射線管理区域にしなければならない土地で、100万人もが被ばくしながら生活を続けている。困難を覚悟で県外で自主避難生活を続ける人たちに対し、国は「復興した」「福島へ帰れ」と言い、被害者が分断されている。
廃炉作業は難航し、収束の先は見えない。800トンあるデブリ(溶融核燃料)のうち、昨年11月にようやく、たった0・7グラムを取り出した。広島型原爆7900発分の死の灰は、今も敷地内にある。ロボットは被ばくに弱いため、大勢の下請け労働者が被ばくしながら廃炉作業に携わっている。チェルノブイリ原発のように石棺で覆うべきだ。
米国やフランスは地震がない場所に原発を造っている。ドイツは福島の事故後、「未来の子どもに残すことはできない」と全ての原発を廃止した。日本は世界で唯一、四つのプレート(岩盤)がぶつかり合う場所にある、世界一の地震大国。そもそも原発を造ってはいけない。
戦争と原発も両立できない。原発は敵国の格好の標的になり、ミサイルで破壊されれば、広島型原爆の何千発分という壊滅的な打撃を受ける。
福島の事故直後に火力発電所がいくつも止まり、計画停電が行われたが、それ以降一度も電力供給に支障が出たことはない。原発を即時全廃しても困らないことは、政府統計局のデータも示している。