
実用化へ実証試験が多様に
県の安曇野終末処理場「アクアピア安曇野」から出る下水汚泥を肥料にする実証試験が、今年も始まった。担い手の南安曇農業高校が県と協定を結んで3年目。区切りの年と位置づけ、実用化を見据えて取り組む。
汚泥には窒素やリンといった肥料成分が含まれる。昨年までの試験で、稲などの生育に化成肥料と遜色ない効果がある一方、重金属の残留は基準値以下であることが確かめられた。「アクアピア1号」の名称で国の肥料登録も受けた。
迎えた今年、堆肥化が試験に加わった。アクアピア1号は、脱水処理などされているものの本質は汚泥、つまり産業廃棄物で、そのままでは田畑に入れられない─というのが県の立場。堆肥化で文句なしの肥料にしたいというのが試験の狙いだ。南農高で牛ふん、もみ殻、米ぬかと混ぜて発酵させる。
同校では、農家が扱いやすいペレットへの成形も試みるし、栽培作物の種類も大幅に増やす。稲、麦、スイートコーン、レタス、ヒマワリ、大豆、加工トマト…。主に地域の特産品が加わった。
試験の手を広げられるのは、携わる生徒の数が増えたからだ。生物工学科微生物コースの2、3年生で総勢34人。入学時から関心が変わった生徒も多い。
中心メンバーの伊藤瑞希さん(17)と高取茉帆さん(17)は、ともに動物について学ぶつもりだった。だが、汚泥の肥料化を知り、「農家の、世の中のためになる。素晴らしいと思った」(伊藤さん)、「すごいことが研究できるとのめり込んだ」(高取さん)。
同校の取り組みは、県との協定前の6年前にさかのぼる。主導する今溝秀雄教諭(57)は「社会的な貢献がしたいという生徒が増えた。その気持ちに汚泥肥料がはまった」とみる。この間には、ウクライナ戦争などによる肥料高騰もあった。
汚泥肥料の可能性を考えることが「楽しい」と2人は声を弾ませる。実用化された世界を視野に入れ、先輩たちのバトンを引き継ぐ。