元レーシングドライバー女子・松本の北平さん介護タクシー開業

「どこにいても、いつでも、どこへでも」。松本市波田の北平絵奈美さん(31)は今春、介護タクシー「ここわらいず」を開業した。「外出を諦めてしまう人の可能性を広げ、どんな時間でも大切な思い出に変えるお手伝いができれば」
10歳からレーシングドライバーとして活動し、世界大会に日本代表として出場した経験を持つ。人生の半分以上が車と一緒だった。一方で、祖父母の介護にも長年携わった。施設や病院に通うとき、ちょっとしたお出かけを喜んでくれた笑顔に、幸せを感じた。
介護の経験や自身の強みである「運転技術」を生かし、「移動支援を通して人の役に立ちたい」との思いが強くなった。レーシングドライバーから笑顔を運ぶドライバーへの転身だ。

速さよりゆっくり笑顔の時間を

「私にとって車はあって当たり前。人生の一部です」。車は北平絵奈美さんの相棒だ。
幼少期、車好きの父に連れられ「サーキットあづみ野」(池田町)を見に行った。これがきっかけで「運転してみたい」と、当時女子1人だけのレーシングカートチームに所属。父と毎週練習に励んだ。「F1ドライバーになりたい」。そんな夢を描いた。
カートの全国大会に何度も出場し、2012年には優勝もした。その後、松本短期大(松本市)保育学科に進学。勉強や実習が忙しくなりレースから離れた時期もあったが、諦められず就職先の福祉施設で働きながら、女性ドライバー育成プロジェクトに参加。毎月県外に出向き、練習やレースに参加した。16年には強化選手に選ばれ、米国で開かれたツーリングカーの世界大会に日本代表として出場した。
一方プライベートでは、祖父母の介護を献身的に続けてきた。通院の送り迎えの道中、楽しそうにドライブを満喫している祖父母。立ち寄った店で、食事や買い物をして喜ぶ姿がうれしかった。
「祖父母の元気な姿を残したい」と、満開の桜を見に行き、写真を撮ろうと計画したことがあった。しかし、日々の忙しさに追われ、連れて行けないまま祖父の病気や認知症が進んでしまった。数年後に写真を無事に撮影できたが、「当時はすごく後悔した」と振り返る。
短大時代の実習や就職先での介護を通じ、利用者や祖父母ら一人一人に寄り添い、生活がプラスになっていく経験にやりがいを感じ、福祉事業に興味を持った。車の運転技術には自信がある。「助けがあれば、誰もがどこにでも行ける。私が橋渡し役になれたら」。熱い思いで開業を決意した。
屋号は「ここわらいず」にした。キャッチコピーは「ここから始まる笑顔の出発点!」だ。「少しの移動時間でも、楽しい時間を過ごしてほしい」。移動中は家族に近い存在でありたいと、乗客とのコミュニケーションを大切にしながらハンドルを握る。
「たくさんの方の笑顔につながるよう、心を込めて走ります」

【距離制運賃】
・初乗り運賃680円(1.19キロまで)
【時間制運賃】
・30分ごと3800円
・その他割引・割増あり
【その他サービス】
・病院や外出の付き添い、買い物代行、入退院の手伝いなど。30分1500円
・詳細はTEL080・9835・5476またはインスタグラム