「庭師」と「歌手」自分らしく“二刀流”人生で恩返し 塩尻の後藤髙秀さん

塩尻市中西条の後藤髙秀さん(74)は、二つの顔を持つ。一つは庭師で、もう一つは歌手だ。ある時は太陽の下、作業服に地下足袋姿ではさみを持ち、またある時は舞台の上、りりしい和服姿でマイクを握る。庭師も歌手も「自分の引き出しを増やしてくれたもの」と感謝。周囲への恩返しの気持ちも込め、“二刀流”という自分らしい生き方を貫くつもりだ。

同市出身。脱サラして庭師に転身したのは、第1子が誕生した32歳の時だった。母や姉が庭好きだったことなどが心の底にあった。別業種の会社で働きながらも、「庭師の世界で生きていけたら」という思いが次第に強まり、将来を展望し、迷いもあったが自分の願望を実現させた。
憧れる庭造りを手がけ、理解のある親方に弟子入り。日々の修業で貪欲に技術と知識を吸収し、30代後半で独立。「庭匠 藤秀園(にわしょう とうしゅうえん)」の屋号で活動している。
仕事に対する熱意や姿勢などが口づてで広まり、順調に依頼が増え、忙しくなった。今は年齢もあって高所作業は減らしたが、お客からの「来られなくなるまで、来てほしい」という声を活力に、現役続行中だ。

一方の歌手。歌は物心ついた頃から身近にあった。音楽も好きだった姉の影響もあり、ラジオやテレビから流れる歌謡曲や演歌、グループサウンズ、フォークソングなどさまざまなジャンルの曲を聞いては口ずさんだ。就職した会社ではブラスバンドに入りトランペットを始めた。ビッグバンドで演奏した経験もある。
歌は独学で、どんなジャンルの曲も幅広く歌う。大勢の前で歌うきっかけは会社員だった24歳の時、下諏訪町で開かれた「NHKのど自慢」に出場し、合格の鐘を鳴らしたことだ。「この経験がその後のチャレンジにつながった」。カラオケブームが到来し、仲間と楽しく歌う傍ら、各地のカラオケ大会などに出場し好成績を収めた。
2019年、アマチュアの「第13回信越歌謡選手権大会」で、審査の部・65歳以上の部で最優秀賞を受賞。その副賞で、自分のために作詞作曲された曲「俺とおまえの花暦」が贈られた。
これを機に、副賞の曲と、新たなオリジナル曲「男の試練」をカップリングしたCDをSTKsound(須坂市)から発売。70歳でプロ歌手としてデビューした。
「聞く人の心を震わせてこそプロ」。歌詞は全て頭に入れて舞台に立ち、自分の歌の世界と持ち味の高音で魅了する。現在、オリジナルの持ち歌は、演歌やムード歌謡など6曲。うち5曲は業務用通信カラオケ機器「ジョイサウンド」対応機種で全国配信されている。BS番組の公開収録や各種コンサートに出演するなど積極的に活動。歌唱の様子などはユーチューブで公開している。

どちらかに専念すべきでは―。そう思う時期もあった。しかし、「70歳を境に、公私でお世話になった人たちに庭や歌を通じて恩返しをしたいと思うようになった」とし、「てんびんにかけるのではなく、両方を生かし切り、独自路線の自分らしいライフスタイルをつくりあげたい」と、これからの人生を見据えている。