
木曽町開田高原末川にあるパン店「和和(にこにこ)ぱん」の駐車場に、白いキッチンカーが現れた。店名は「MimiySand(ミミーサンド)」。耳までおいしい食パンで作るサンドイッチが売りだ。パンを焼いた後の余熱で作るプリンや、注文を受けてから作るホットドッグも人気がある。
経営者の渡邉晟(せい)さん(26)と、莉里(りり)さん(26)夫婦は、福井県立大のギターのサークルで出会い、卒業後は共に石川県の企業に就職した。晟さんは幼い頃から両親が焼くパンのおいしさを多くの人に伝えることが夢だった。莉里さんはパンが好きで、学生時代にコーヒー店でアルバイトをし、「パンの香りで朝を迎えるのは幸せ」と感じていた。
二人の夢が重なり、家族と相談して、想定より早く起業した。
人とのつながりを一番感じた
2023年秋、渡邉晟さんと、莉里さんは退職・結婚し、木曽町開田高原で暮らし始めた。
晟さんの両親、実さんと潮美さんが営むログハウスのパン店「和和ぱん」で、パン作りの基礎を学びつつ、商工会や創業セミナーで経営も学んだ。町内のスキー場や役場などでサンドイッチを売り、商品開発や販売方法の試行錯誤を続けた。約1年半の準備期間とプレオープンを経て、4月26日にキッチンカーの店「MimiySand」がグランドオープンした。
初日は地域の人たちや、和和ぱんの常連客が真っ先に駆け付けてくれた。地域の人からは準備期間中、アルバイト先や販売場所を紹介してもらった。経営を一緒に学んだ起業家仲間が祝福に来た。互いに努力する姿を見てきて、励みになった。
晟さんの以前の勤務先、石川県から来てくれた人もいた。「人とのつながりを一番感じた。このご縁を大切にしたい」。晟さんが小学生の時に開田高原に移住して起業し、一から人間関係を築いた両親の偉大さを改めて感じ、深く感謝した。
莉里さんは開田高原の豊かな自然に魅了され、「高原産の素材をもっと使いたい」という思いが強くなった。夏には特産のブルーベリーやズッキーニを使った商品を開発したり、冬には温かいスープを提供したりする夢を静かに話す。
ホットドッグに、ピクルスを刻んだレリッシュ(薬味)ソースを載せてみると、彩りが良く、味のアクセントにもなって好評だった。具材とパンの相性や、手に持った瞬間に指の跡が付くほど、しっとり軟らかい食パンの焼き具合にこだわる。味はもちろん、手にした瞬間に軟らかさや温かさが伝わることも大切にしている。
キッチンカーの内装は信州産のヒノキ材を使用。深夜からパンをこね、パンの焼き上がりの香りと共に朝を迎える。キッチンカーのドアを開けると、ふわっと木の香りも漂う。幸せに満たされる瞬間だ。白いキッチンカーに合わせ優しい雰囲気で装飾された窓から、迎えるのは二人の笑顔だ。
和和ぱんに来店したが、開店前の準備中だったため、開店時間が早いMimiySandで買い物する人や、MimiySandで注文後、待ち時間に和和ぱんに立ち寄る人も多い。「お客さまには2店それぞれのパンの違いを楽しんでいただいている。若さと笑顔で地域の方に親しまれる店になってほしい」と母・潮美さんは話す。
営業日は木~日曜。午前9~10時開店で売り切れ次第終了(天候・季節により変更あり)。場所は、主に和和ぱん敷地内で、地域のイベント会場などに出向くこともある。最新の情報はインスタグラムで確認を。連絡先は渡邉晟さん℡070・9156・6335