
幼い頃に着ていた洋服、亡き家族が大切にしていた着物─。もう着ることはないけれど、捨てることもできず、押し入れにしまったままになっている「思い出の衣服」は、誰の家にもあるのではないだろうか。
記憶の布にもう一度命を吹き込み、新しい形へと生まれ変わらせてくれるのが、松本市ナワテ横丁(大手4)にあるウクライナ民族衣装の販売とイージーオーダーの専門店「Ohaco(おはこ)」だ。ビンテージ民族衣装やオリジナル洋服を販売するほか、リメークサービスをしている。
一人一人の思いに寄り添った服作りをするのは、店主の永田みずほさん(同市)。全国からリメークの依頼が寄せられ、多くの衣服が帽子や洋服、小物へと姿を変えてきた。
背景にある物語などくみ取って
松本市ナワテ横丁にある、ウクライナ民族衣装販売とイージーオーダーの専門店「Ohaco(おはこ)」。店主の永田みずほさんは、松本衣デザイン専門学校(同市、現在は閉校)とイタリア・ミラノの学校で服飾を学び、帰国後は衣デザイン専門学校で16年間講師を務めた。フリーランスとしてオーダーメードやリメーク、商品企画に携わった後、2019年にOhacoをオープンした。
店では編み物、刺しゅう、パターン製作など多彩な技術を持つ職人たちがチームを組み、手仕事で一点物の作品を仕立てる。
母が仕立てた服ポーチと帽子に
今年3月、近所の「シェアキッチンオレンジスカイ」で週1回おむすび販売をしている信太育己(しだいくみ)さん(同市)は、洋裁師だった母親が3歳の自分のために仕立てた、ウールのワンピースを持ち込んだ。自宅で大切に保管されてきたものという。
リメークを担当したのは、服飾デザイナーの藤原弓枝さん(同市)。まずワンピースの縫い目を一針ずつ丁寧にほどき、採寸や製図などの工程を経て、ポーチとして新たに生まれ変わらせた。余った布を無駄なく活用するため、永田さんの提案でベレー帽も作った。
藤原さんは「縫製の跡から、お母さまの愛情を感じました」と話す。完成した品を手にした信太さんは、「厳しい母でしたが、私を愛してくれていたのだと改めて感じられて、うれしかった。このポーチをいつも持ち歩けるのがうれしい。ベレー帽も冬にかぶるのが楽しみです」と笑顔を見せた。
「Ohaco」では、年齢や体形の変化に合わせて手直しする「ユニバーサルデザイン・リメーク」サービスも提供しており、スタイリングの相談や講習会も受け付けている。永田さんは「衣服はただ着られればいいというものではなく、依頼主の人生や暮らしに寄り添った提案ができることが重要」と話す。
リメークとは、単なる“作り替え”ではなく、その背景にある物語や感情を丁寧にすくい上げる。「Ohaco」を訪れた人は、永田さんとの対話を通して、温かなやりとりに引き込まれていく。
店舗情報やサービスの詳細は=公式サイト=から。