
子どもの頃やりたかったこと
郵便局の消印の一つ、風景印(風景入通信日付印)。局名と押印年月日の他、周辺の名所旧跡、ゆるキャラなどの図柄が描かれている。設備メンテナンス会社社長の只野昌明さん(59、松本市宮渕3)は、風景印のコレクターだ。
「子どもの頃にやりたかったこと」といい、2016年から39年ぶりに集め始めた。街道を歩いたり、旅の途中にちょっと寄り道したりしながら、各地の郵便局を回り集める。思い出にも記念にもなるのがいいところ。時間が許せば、図案になった名所など“実物”を見に行く。
これまでに集めた印は約700。まだまだ行ってみたい局がある。マンホールの写真やカードを集める「マンホーラー」としての顔も持つ。
旅の思い出ご当地消印
日本に約1万2千あるといわれる風景印。局名、日付の他、地域の名所旧跡、ゆるキャラ、ゆかりのあるアニメなどがデザインされる「ご当地消印」だ。通常の黒の消印とは異なり、とび色で押される。導入している郵便局の窓口で依頼すると、はがきや切手に押してもらえる。
図案を通じて地域の文化に触れられるほか、ゆるキャラなどはかわいいデザインも多く、見るだけで楽しい。旅の思い出にと集める“印活”をする人も多いという。只野昌明さんもその一人だ。
広島県尾道市出身。両親の趣味が切手収集で、一緒に郵便局を訪れるうちに、風景印があることを知った。中学1年生の夏休み、広島県庄原市の帝釈郵便局に出かけ、風景印を押してもらった。尾道市以外では初。心が躍った。
そんな高揚感も、友人との会話で封印することに。「根暗なイメージを与えた。やめよう」
高校、大学、結婚―と、風景印を思い出すことはなかったが、50歳で離婚したことを機に、子どもの頃の気持ちを思い出した。「生きる気力をなくした。死についても考えたが、どうせなら、やりたかったことに挑戦しよう」。興味を持っていた街道を歩くこと、そして風景印を集めることを始めた。
復活の第1号は、2016年の松本南郵便局(平田東2)。松本空港と重要文化財の大(だい)威徳明王像(いとくみょうおうぞう)(牛伏寺)、北アルプスが描かれている。松本市内34局はコンプリート。塩の道(松本市~糸魚川市)を歩き、糸魚川市の17局、尾道市の38局も制覇した。
メルパルク長野(長円に、メルパルク長野のビル、長野新幹線あさま)、岡谷東銀座(岡谷太鼓の輪郭にイルフ童画館のモニュメントなど)など、郵便局が廃止になり、使用終了になる風景印もある。デザインが変わることもあり、二度と手に入らない物は、宝物だ。
16年にはもう一つ、只野さんの心をつかむ出来事があった。各地で「ご当地マンホールカード」の第1弾が配布されたのだ。地域の魅力が伝わるふたのデザインに魅了された。旅先ではカードを集めるだけでなく、実物を写真に撮ってコレクションするようになった。
風景印にせよマンホールにせよ、その土地ならではのデザインに、強く引かれる。憧れるのが沖縄だ。「琉球文化が反映され、独特のデザインが多い。糸満市にある三和郵便局など、1972年の本土復帰前と同じ風景印が使われている局もある。ぜひ行ってみたい」。少年のように目を輝かせた。