夫婦で二人三脚 松本の大衆食堂「味栄」半世紀

うまくて、安くて、ボリューム満点!そんな大衆食堂の典型のような店だ。松本市沢村3の「食事処(どころ)味栄(みさか)」は、女将(おかみ)の小林美幸さん(73)と、調理担当の保延さん(75)夫妻が二人三脚で切り盛りして今年で半世紀を迎えた。「漫才コンビのような」二人が作り出した、地元に愛される味をこれからも守り続けていく。
外観や店内に昭和の風情が残る味栄。壁一面に張られた短冊メニューは、定食や丼物、カレー、ラーメンなど、約50種類。どれを注文しようか、つい迷ってしまう。お薦めメニューを聞くと、「全部!」と自信満々に答える女将。でも人気は「煮カツ定食」(950円)と教えてくれた。
この変わらぬ味を求め、「店が好きだから」と長年、足を運ぶ常連客は多く、「周りの人に助けてもらってやってこられた」と二人は感謝する。
四賀村(現松本市四賀地区)出身の保延さんは、松本市内の高校卒業後に市内の洋食店で調理スタッフとして働き、料理の楽しさを知った。県内や都内のレストランなどで洋食を中心に修業を積み、1975年に独立して味栄を開店。その直後に美幸さんと結婚した。
当時の店周辺は、果樹園や畑が広がり、住宅などはほとんどなかったという。客は農家や職人、家族連れなどが多く、まだ高価なイメージがあった洋食店ではなく、「誰もが毎日来ても食べ飽きない豊富なレパートリーと食べられる価格」をモットーとした大衆食堂を目指した。
店に来るなり「父ちゃん何か作って」と、注文する30年通い続ける人や、3世代で来店する家族など、ほぼ半分が常連客。仲良くなった客とキャンプに出かけたり、時には客の人生相談に乗ったり。美幸さんは「ここはいろんな出会いがある場所。本当に楽しいんです」とほほ笑む。
8年前。保延さんが脳の病気を患い、店を3カ月間休業。医者からは「復帰は難しい」と言われた。「それでも店を閉めようとは思わなかった」。美幸さんの支えもあり、この困難を二人で乗り越えた。
この夫婦は、仕事場でも家でもいつも一緒。だからつい、客の前でもけんかをしてしまう。しかし、常連客が「漫才をしているみたい」と喜ぶように、もう一つの店の“名物”になっている。
「みんなに優しいし、健康でいてくれてありがたい」と美幸さんに感謝する保延さん。美幸さんは「言うことを聞かない頑固な人だけど料理は天下一品」と保延さんの腕にほれ込んでいる。
二人はいつも「お客におなかいっぱい食べてもらい、明日の活力にしてほしい」という思いを込め、料理を出している。その客との出会いや会話が「自分たちの活力になっている」と保延さん。だから「動けなくなるまでやり続けたい」。「街の大衆食堂」を営む心意気だ。
午前11時~午後1時半、5~8時。日曜定休TEL0263・35・4431