
プロのダンサーを目指して、日本、英国を拠点に踊り続けてきた安曇野市三郷温出身の川上小春さん(23、神奈川県)は、クルーズ客船「飛鳥Ⅲ」の専属ダンサーに選ばれた。
飛鳥Ⅲは今月から就航した新造船。専属ダンサーは、競争倍率30倍以上という狭き門を突破した12人の女性たちで、川上さんはその一人になった。
現在の踊りの原点となるバレエを始めて約20年。高校在学中に英国の専門学校に留学するなど、常に「ダンスを仕事として続けること」を目標にしてきた川上さん。
しかし、現実は甘くはなく、バレエ団やテーマパークのオーディションに落ちた回数は数知れず、心が折れそうになったという。
若くして多くの挫折を味わった苦労人が、やっとの思いでつかんだ夢の舞台は大海原だ。
やっぱり、踊ることが好き
「飛鳥Ⅲ」は、郵船クルーズ(横浜市)が所有、運航する客船で、同社として34年ぶりの新造船だ。専属ダンサーのオーディションは、昨年8月末の1次審査(書類審査)から始まった。
川上小春さんは1次を通過し、2次の実技審査に臨んだ。出された課題は、和風の雰囲気があり、手の動きが激しいジャズダンス。バレエを原点にする川上さんにとって「慣れない、苦手な動き」で、2次が終わった時点で合格する自信はなかったという。
しかし、難関を突破。面接などの審査を経て、最終の実技審査まで進んだ。課題は、バレエの要素がふんだんに盛り込まれた踊り。「やったと思った」と川上さん。手応えをつかんで約4カ月間のオーディションを終えた。
合格通知は昨年末に届いた。客船の専属ダンサーは、「ダンスを仕事として世界中を巡りたい」という夢を抱いていた川上さんにとって、憧れの仕事の一つだった。
夢が現実に。「やっと合格できて、すごくうれしい気持ちはある」という半面、「仕事場が海の上という未知の世界。何があっても簡単には帰れない」と、不安な心情も明かした。
合格後に、郵船クルーズの幹部から「これであなたたちは、海と縁ができた」と言われ、胸を打たれた。「海なし県の北アルプスの麓で育った私が『海の仕事』をする。じーんときた」
挫折の日々から飛鳥Ⅲと出合い
3歳の時、松本市内の教室でバレエを始めてから、踊り一筋。松商学園高2年時にロンドンのセントラル・スクール・オブ・バレエという専門校に留学。3年間学んだ。
卒業後、いったんはカナダのバレエ団のオーディションに合格し、研修生として所属した。だが、「自分に合わなかった」と約半年で退団。帰国した。
折しも世界的にコロナ禍に突入する時期。苦難が待ち受けていた。移動が制限され、バレエ団やテーマパーク、ダンス集団などのダンサー募集には、動画を送ったり、オンラインでオーディションに臨んだり。募集していない団体にも売り込んだ。
「日本だとオーディションの機会が少ない」と、再び英国に渡った。ネットで探したロンドンのシェアハウスで、いろんな国の男女と暮らし、アルバイトをしながらオーディションを受けまくった。その数200回以上。しかし、結果は出なかった。
カナダのバレエ団を退団して約2年がたった。「ここまで落ち続けると、さすがに精神的に疲れて、心が折れそうになった」。つらさを抱えながら帰国した。
「いいかげん、踊りを諦めるか」。そんな思いが頭をよぎった頃の「飛鳥Ⅲ」との出合いだった。「やっぱり、踊ることが好き」と川上さん。「いつか両親やバレエの恩師を、飛鳥Ⅲのクルーズに招待できたら」と、目を輝かせた。
川上さんは当面、8月下旬までの航海に乗船する予定。