【信大講座新聞をつくろう2025】 松本のサクセン・柿原仁志さんに学ぶ「温泉」の掘り方

MGプレスが信州大全学教育センター(松本市旭)で開いている寄付講座「新聞をつくろう!」を受講した本年度の1年生20人が、3~5人の五つのグループに分かれ、それぞれ関心のあるテーマを取材した。

関東から“はるばる”松本へやって来た男子3人。そんな僕たちが松本で何をするのか、そう「湯あみ」である。連日連夜、名湯を求め松本を走り続けていたが、ある疑念が頭によぎった。「温泉に入るだけで本当に温泉好きを名乗れるのか、温泉について熟知してこそ温泉を愛せるのではないか」。そんな考えの下、まずは掘り方から学び温泉マイスターに一歩近づこうと、温泉や地下水開発などを手がける松本市双葉のサクセンを訪ね、技術課課長の柿原仁志さん(59)に話を聞いた。

温泉の掘り方に迫る

温泉を掘るに当たってはさまざまな工程が存在する。温泉があるかどうかの調査や、20を超える申請を行わなくてはならない。そのため、一つの温泉を掘るのに長期間かかるケースが多いという。
温泉を掘る方法はいくつかあるが、最もメジャーなのがロータリー工法だ。使うのは「ビット」と呼ばれる刃先。これを回転させるモーターのような役目をするのが「さく井(せい)機械」で、二つは「ロッド」と呼ばれる長い棒でつながれている。
ロッドは何本もの棒をつないだもので、掘削の進行状況によって、都度付け足していく。温泉は通常、数回に分けて掘っていくので、内部はタケノコのような構造になっている。
1段目を掘り終わった頃、穴が崩れるのを防ぐために、掘った穴に鉄管を入れる。1本6メートルほどの長さで、1本ずつ溶接し、つなぎながら入れていく。最近はねじでつながるようになっている鉄管もあるという。また、特に1段目では、井戸の中に冷たい地下水が入って温度が下がらないように、鉄管と地層の間をセメントで固める。これで1段目が完成だ。
2段目の掘削では、1段目より小さい径のビットを使って、花崗(かこう)岩の割れ目に含まれる温泉を目指して掘っていく。3段の温泉井戸では同様に掘る場合もある。このロータリー工法では、孔内(こうない)に泥水を循環させることで、掘りくずの排出と穴の崩壊を防いでいる。
2段目の掘削が終わると、再び鉄管を入れる。入れ方は1段目と同じだが、今度はセメントで固めない。そして温泉を取るために、穴の開いた鉄管(スクリーン)を用いる。温泉はスクリーンを通して井戸の中に入る。その後、水中ポンプを入れて温泉をくみ上げる。

掘削後の問題

温泉が出た後も問題が起こる。例えば古くに掘られた温泉などは鉄管を使用しているため、劣化・腐食が起こる。そこでサクセンは対策として、ステンレス製の配管に変える工事をしている。しかし、こうした作業を行う会社は少なく、さらには後継者がなく廃業するところもあるという。つまり大事なのは、新しく温泉を掘ることよりも、今ある温泉をどう維持していくかだ。
また、柿原さんが聞いた他社の話によると、食塩泉など成分濃度が高いと配管の腐食、ろ過装置の目詰まりなどが起きやすく後処理が難しいため、温泉を維持できずに廃業せざるを得ないケースもある。温泉を掘るだけなら、濃度があまり濃くない単純泉が好ましい。メンテナンス業務では、他社が掘った温泉を行うこともあるが、掘削時の資料がなく、地下の状態を調べるのに苦労したという。
サクセンが現在手がけているのは、南信地方の「道の駅」に併設する公衆浴場と、山の中の宿泊施設の温泉掘削という。公衆浴場は、他社がメンテナンス中に起こした事故でポンプが故障したため新しく温泉を掘ることになり、同社が落札したという。

【取材を終えて】

荒木律誠(医学部) 以前の私は、「温泉を掘る」と聞いて思い浮かべるのは「掘削」であった。立案!すぐさま掘削!掘りまくる!そのようなイメージだったが、実際はいくつもの許可を集め、やっと掘れる、という一筋縄ではいかないものだと知った。これから温泉に入る時は、掘られるに至った流れに思いをはせて漬かりたいと思う。
石川竣也(教育学部) 今回の取材では、温泉を掘ることの大変さを学ぶことができた。一つの温泉を掘るに当たってたくさんの調査や申請が必要になってくるため、1年以上の期間がかかるということに驚いた。身近にある温泉ができるまでの苦労を知ることができる良い経験になった。
藤倉秀斗(理学部) 取材を通して、温泉掘削にどれだけの時間と労力がかかっているのかをよく理解した。特に掘り方や温泉維持において、できる工夫をすべてやるという意志が感じられた。これからは温泉に入れることに感謝して利用したい。