加藤直さん演出 山形「西山の人形劇部」清水寺で上演 8月12日

山の中のお寺を劇場に―。「挑戦!大人とこどもで創るワタシたちの劇場」。そんなテーマで、8月12日に山形村清水高原の清水寺で開く人形劇「注文の多い料理店」に取り組んでいるのは、4月に結成した小学生からシニアまで10人の「西山の人形劇部」だ。
同村小坂の古民家カフェ「まるます喫茶」を運営する増塩理沙さん(41)を中心に、同所を拠点に人形劇や読み聞かせ、合唱などを手作りで行う「ころりん劇場」の一環。
「人形劇は初めて」という面々の演出をするのは、劇作家・演出家の加藤直(ただし)さん(82、東京都)。公民館やガレージなどさまざまな場所で「雑さと真剣さと素人とプロが、入り交じりながら創作中」(増塩さん)という練習風景をのぞいてみた。

他にない新しいスタイル

「西山の人形劇部」の6月26日の練習場所は、増塩理沙さんの夫、勝美さん(51)が代表を務める、山形村の「丸増設備」加工場。午後2時からの集中稽古で、島田美どりさん(50)と安藤佳織さん(39)が、人形を操りながらせりふを付けた。演出の加藤直さんは、声の出し方や空間の使い方などを指導したほか、人形の動かし方一つで人形の感情や見え方が変わることを伝えた。「設定は操り手が作る。あなたはどうしたい?」と、自分たちで考えるように声をかけた。
大学で演劇部に入り、結婚前まで声優をしていたという島田さんと、昨年演劇の出演を体験したという安藤さんは、いずれも増塩さんに声をかけられ「気軽な気持ち」で参加。人形劇の経験は初めてで「パニックになる」「手がつりそう」と苦笑しつつ、「演出家が(演劇やオペラなど幅広い分野で活躍する)すごい人というのは最近知った。分かりやすく教えてもらえるのでうれしいし、自分たちが最大限できることをやりたい」と食らいつく。
午後6時からは、子どもの迎えなどを終えて稽古場に戻った2人の他に、帰宅した小学生や、アルパやクラリネットなどの音楽隊も合流しての全体稽古。せりふや歌、動きなどのタイミングを確認しながら、繰り返し合わせた。アルパを演奏する兵藤真彩さん(40)は「回を重ねるごとに、みんなどんどん変わってきている。見応えのあるものにしたい」と話した。

演劇を通して他人と出会う

増塩さんが所属する「マツモト・ザザ座」の座付き演出家という縁から、「人形劇をやるので、たまに顔を出してもらえませんか」と言われたのが始まりだったという加藤さん。「デジタルの時代、生身の会話やワクワクしたり考えたりすることがなくなり、演劇が衰退してきている。自分もまだ何かをやらなければ」と思っていた。そんな時に「演劇やお話を通して他人と出会う活動を、村の人たちとやりたい」と増塩さんから聞いた。「ちょっとワークショップをやるつもりが、あれよあれよという間に演出をすることになっていた」と笑う。
それでも、洋服の直しなどをしている安藤さんが人形を、勝美さんが舞台や小道具を作るなど、子育てをしながら、学校や仕事に行きながら、みんなが協力して楽しそうに取り組む姿に「人と出会って仲間をつくり、一緒にものをつくる。その素朴さが人間を育てていく。感動した」と加藤さん。「他にはない新しい人形劇のスタイル。演劇をやっている人も、なじみがない人にも見てほしい」。増塩さんも「みんなで手作りして進めている。独特な公演になると思うので、応援してほしい」と話している。
午前11時と午後7時の2回公演。4歳~小学6年生500円、中学生以上千円。大人チケット1枚につき子ども1人無料。