イベント会場で癒やしの一杯を 「陽向とコーヒー」塩尻の布施真世さん

コーヒーで頑張る人の後押しを

竹で編まれたドリッパー。コーヒーフィルターは麻。丁寧にコーヒーを入れながら、客との会話を楽しむ─。
布施真世(ふせ・まよ)さん(42、塩尻市広丘高出)は2021年、夫の政人さん(33)が働く同市に神奈川県から移住した。イベント会場でハンドドリップのコーヒー店を開いている。
同年に息子、陽南人(ひなと)ちゃん(4)を出産。移住も重なり生活が大きく変わった。友人も知り合いもなく、自宅で一人コーヒーを飲むのが唯一の癒やしの時間だった。だが、乳児の子育て中はその一杯もゆっくり飲めない日々だった。
開店のきっかけは23年、息子が通う保育園で知り合った母親らと開いたお話会で、参加者にコーヒーを振る舞ったことだ。「陽向(ひなた)とコーヒー」の始まりだった。

環境考えた道具 仕入れは地元店

「たった一杯のコーヒーだけど、頑張る全ての女性や母親たちに、癒やしの時間を届けられたら」
布施真世さんは2023年10月、イベント会場へのコーヒー店出店を始めた。息子の陽南人ちゃんの名前に由来し、「日なたぼっこをしているような店に」と願いを込めて、店名を「陽向(ひなた)とコーヒー」とした。コーヒーの香りから広がる人との縁や笑顔を大切に、心を込めた一杯を提供することを心がけている。
現在は毎月1回、塩尻市広丘野村の市北部交流センター「えんてらす」で開くマルシェを中心に、地域のイベントに出店している。
麻のフィルターや竹のドリッパーを使うのは、使い捨てではない、環境に配慮した物を使いたい、との考えから。地域とのつながりも大切にしたいとの思いで、JR広丘駅前でコーヒー豆を販売する「CLECY(クレシー)」から仕入れた豆を数種類用意し、好みの味を客に選んでもらう。
マルシェを訪れるのは、小さい子どもを連れた母親や、地域に住む人たち。その場で豆をひき、ゆっくりとハンドドリップをしながら会話を楽しむ。6月中旬のえんてらすマルシェを訪れた松沢紗綾(さや)子(こ)さん(38、松本市村井町南)は、授乳中のため「デカフェ(カフェインを90%以上取り除いたコーヒー)もあってありがたい」と、アイスコーヒーを頼んだ。抱っこひもに収まる那月(なつき)ちゃん(8カ月)の子育て中だが、大好きなコーヒーの香りがうれしい、と笑顔で布施さんとの会話が弾む。
6月の塩尻市のイベントでは、“常連”の塩尻東小2年生の辻陽(ひ)向(なた)さん(8)が訪れた。店名と同じ名前というつながりで仲良くなり、イベント出店時には母親と顔を出してくれる。陽向さんは「甘くて苦い」コーヒーの香りが好きといい、ドリッパーからゆっくりと落ちる滴をじっくりと眺めていた。

母親らと一緒に地域活動にも力

コーヒーから始まったつながりが広がり、布施さんは現在、子育て中の母親を中心に活動する市民活動団体「みんなのえんがわしおじり」の共同代表も務めている。公民館で月に1度集まって一緒にご飯を食べたり、同市の大門商店街でごみ拾いをしながら地域の人の話を聞いたり、生産者の顔が見える農園を訪れたり。子どもたちと一緒に食育と多世代との交流、地域のつながりを大切にする活動を実践している。
布施さんには、コーヒーを飲みながら本を読むブックカフェイベントを開く夢がある。「たくさんの人の力を借りて出店できているので、自分も周りにあるすてきなものを紹介したり、何かやりたいと思っている人の後押しをしたりしていきたい」と話している。