
山の厳しい仕事に大きな価値
「大工仕事が中心という、この会社のポリシーは守り続けたい」。こう語るのは、創業75年を迎えた滝澤工務店(松本市今井)の3代目、滝澤顕社長(47)だ。先代、先々代からの仕事を引き継ぎ、将来へ継続させるための組織づくりが「自分の使命」と心得ている。(浜秋彦)
同社の業務の内訳は、滝澤工務店一級建築士事務所が請け負う、住宅や別荘などの元請け工事が最も多く、住宅の設計・施工などの滝澤工務店の自社物件と合わせて約9割を占める。残りの1割は文化財の耐震工事などの公共工事と、山小屋の補修工事などだ。
この中で、割合は低いが、山小屋の工事は同社の特徴の一つ。約30年前に、北アルプスの西穂山荘の工事をしたのをきっかけに、山小屋のオーナーから依頼がくるようになり、最近では2014年に大規模噴火した御岳山のニノ池山荘の建て替え工事に10年近く携わったという。
山での仕事は、平地とは違う、命に関わる危険が伴うほか、事前の万全な準備が必要だ。
「例えくぎ1本足りなくても、すぐには取りに行けない。こうした厳しい環境で仕事をするには、準備と機転が重要」とし、「山から下りてきた若い大工は、仕事に対する目の色が変わっている」。特別な経験ができる山の仕事に大きな価値を感じている。
こうした仕事は創業者で大工だった祖父や、現在は、同社相談役で設計士の父から引き継いだもので、「『何か新しいことをやらなければ』と思った時期もあったが、今は、この仕事をやり続けることがこの会社の武器であり、成長につながる」。
初代、2代目はどちらかというと、職人気質で、仕事に対しては「トップダウン型」だった。対して自身は、こうした仕事を引き継ぐための「ボトムアップ型」の組織づくりを目指している。
◇
幼少期から木くずや汗まみれになって働く、祖父や父の姿を見ており、中学生の頃には「自分が継がなければ」という義務感があった。
高校、大学時代はその義務感に「苦しめられた」というが、周囲にいた自分と同じ境遇の後継者らと出会ったことで克服。会社を継ぐ直前の約2年間は、当時の社長の下で、振る舞いや対応の仕方などを学んだという。
「世の中に、必要とされる会社であり続けたい」。会社を引き継いだ者の覚悟だ。
たきざわ・あきら
1978年、松本市出身。松本蟻ケ崎高、日本大工学部卒。地元に戻り、建設会社に就職。2005年、滝澤工務店入社。19年、社長就任。