「よき香人」目指す理系女子 香道たしなむ信大生・塩尻の田中美麗さん

信州大農学部3年の田中美麗さん(20、塩尻市広丘野村)は、香道を習い始めて6年目。香りのほか古典文学や和歌などともつながりが深い芸道だ。「リケジョ(理系女子)」を自認し、古典や古語は苦手な分野だが、楽しみながら知識や作法を身に付け、「よき香人」を目指そうと研さんしている。

出合いは高校時代の部活動

9月のある日、師範の矢上千佳子さん(82、松本市里山辺)の自宅での稽古に参加した田中さん。香りを判別する組香の一つで、平安時代を代表する歌人6人をモチーフにした「六歌仙香」に臨んだ。
60~90代の先輩らが居並ぶ中、田中さんは香木をたく「香元」を担当。着物をまとい、すっと伸びた背筋で作法に集中する姿から、心地よい緊張感が伝わる。
松本深志高校1年の時、先輩に誘われ香道部に入った。「香道」という芸道の新鮮さに好奇心を抱き、全国的にも珍しい部活動に引かれたという。
香道では、香りを嗅ぐことを「聞く」と表現する。静粛な所作で、複数の香りの中から同じ香りを聞き当てる嗅覚や感性、想像力が試される。香席の結果を墨書で記録する役「執筆」など、さまざまな礼儀作法や教養も必要だ。
「最初はすごく難しそうで、自分が入っていかれるか不安だった。お手前には品性が出る。自分を磨くことが大切と知った」と田中さん。部長を務め、卒業後も続ける決心をした。
和歌や書も学び研さん続け
現在は月2回の稽古のほか、和歌を学ぶ「大和歌の会」(松本市)に入会。古典や古語を理解するのに時間がかかるが、「知らない言葉や世界に触れられるのが楽しい」と言う。着物の着付けも習得し、書道教室にも月2回通うようになった。
矢上さんによると、香道をたしなむ若者は全国的にも少なく、田中さんは貴重な存在という。「精進すれば必ず、よいものが蓄積されていく。謙虚さを大切に、人としてしっかり育ってほしい」と期待する。

大学では森林・環境共生学コースで学び、「実習ではチェーンソーも使う」と田中さん。高校時代の授業で生物の多様性や循環を学んだのがきっかけで、農学部に進んだ。同学部の文化祭「落葉松祭」(18日)の実行委員長を務めるなど、多忙でアクティブな日々を送っている。
“動”の学生生活に対して“静”の香道の稽古は、心を落ち着かせ自分と向き合う大切な時間という。田中さんは「師範や先輩から知識や品性を学び、こつこつと歩んでいきたい」と、これからも精進を続ける。