
江戸時代初期から380年の歴史があるとされる山形村の大池諏訪神社で、老朽化した社務所と、拝殿と社務所をつなぐ回廊の建て替え工事が終わり、完成後初めての例祭が4、5日に行われた。
各地域で少子高齢化が進み住民意識も変化する昨今、多額の建築費用を氏子住民の寄付(負担)で賄うのは難しい。そこで氏子総代会は「氏子世帯に寄付を求めない」方策を検討。境内のヒノキの巨木を売却して事業資金を捻出し、建築資材の大半は境内から伐採した樹木などの「備蓄用材」を充てた。
建て替え計画が持ち上がって5年目。関係者は「今後100年は持たせたい」という。神社の資源を活用した事業は、地域住民の心のよりどころ、神社を守る知恵と言えそうだ。

自前で整備知恵絞り神社守る
「(前日の)夜8時ころまでかかったんですよ」
4日に宵祭りが行われた大池諏訪神社(山形村)。社務所建築などの工事を担った、近くで工務店を営む籠田利男さん(75)は胸をなで下ろした。社務所は昨年末に完成していたが、拝殿と社務所をつなぐ回廊が仕上がったのは3日夜だった。
拝殿での神事を済ませた宮司の小林司さん(69)は回廊で「お宮の木や寄贈していただいた木などの備蓄用材を有効に利用しながら、社務所と回廊を祭りに間に合わせることができ、一区切りがついた」と、関係者への感謝を口にした。
社務所は73・7平方メートル(22・33坪)。16畳の座敷と板の間、調理室などを備える。座敷には、樹齢450年ほどというヒノキの一枚板で作った長さ2メートル余の座卓2台が置かれた。完成した回廊は幅約1・8メートル、全長約19メートルだ。
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社務所などの建て替え計画が持ち上がったのは2021年度。神社境内整備事業実行委員会委員長・建設委員長の上条昇一さん(76)によると、100年以上たった建物は老朽化が激しく、境内で伸びた樹木が周辺住宅に及ぼす危険も指摘された。
「何とかしなければ」と氏子総代会が会議を重ねた結果、神社の木を伐採し売却、資金を確保することに。「氏子から寄付を集めず予算の範囲内で事業を行う」方針は22年10月、約300戸の氏子の総会で承認された。
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工事の請け負いを含め、伐採など事業全般の対応を任されたのが籠田さんだ。伐採は22年11~12月に実施し、売却対象のヒノキ22本を含め計70本余りを切った。23年2月に22本は競売にかけられた。売却金額は外部に公表していないが、当初見積もりを上回り「計画した整備事業全体を賄えるだけの額で売れた」(上条さん)。
一方、建築資材の大半は、売却した木以外の伐採木で、近隣の家から寄贈された木もある。籠田さんがこだわったのは、よそから仕入れる木材ではなく「神社で育った木を使いたい」との思いだった。伝統的な工法で神社の施設を整備するのは、容易ではない。製材した柱や板は1年ほど乾燥させる必要があり、その管理にも目を配った。
籠田さんは「今は、昔ながらのやり方でできる大工がいない。責任重大な仕事を大きな使命として任されたと感じている」とし、安堵の表情を浮かべた。
境内整備事業は26年度以降、本殿と拝殿を囲む瑞垣(みずがき)(玉垣)の新築や、鳥居建て替えを予定している。