
東京都内のIT企業で働いていた金井友哉さん(26)は今春、「自然に関わる仕事がしたい」と塩尻市森林公社(宗賀)に転職し、住まいも同市広丘原新田に移した。公社でただ一人の20代職員として林業の現状を学び、課題を感じ取る日々だ。
林業の現状知り課題解決を
酷暑だった今夏、定期的に山の中を歩いた。公社の「森林集約化担当」として、所有者や樹種を記した「林班図」を基に境界を確かめて回る仕事だ。沢を渡り、尾根を越える。汗だくになるし、喉が渇く。「スポーツ飲料の減り方がすごかった」
1日の行動時間は、長いときは6時間に及んだ。それでも苦にならなかったという。「森に入れるうれしさが、暑さのつらさを上回った」
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今年初めまで、もっぱら屋内にいた。大学を卒業して入った会社は、情報システムのサーバーの構築や保守を担っていた。トラブルに24時間対応するシフトで働く中で、思い出したのは故郷の風景だ。
実家は近くに山を望む埼玉県秩父市。よく自転車に乗り写真を撮って回った。そんな環境を思い出し、「自然に囲まれていたことのありがたさを知った。今のままだと後悔しないかなと思った」という。
自然に関わる仕事への転職を考え、浮かんだのが林業だった。「森の中に入り、ダイレクトに自然を感じられるから」。山梨県の森林組合にインターンで入り、「やれそう」と手応えをつかんだ。同じ業界で働く妻は東京生まれだったが、「田舎に住みたい」と意見が一致した。
そんな折、観光の道すがらに目にした北アルプスの眺めに圧倒された。昨年10月には塩尻市で林業業者が集まるイベントに参加し、森林公社の求職を知った。仕事の内容は山を歩き回る実地調査とそのデータ処理。森にいる時間とパソコンに向かう時間が半々のイメージで、ITの経験も生かせることから、ここでも妻が「合っているんじゃないか」と背中を押してくれた。
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今年2月、同市が移住を検討する人向けに貸し出すお試し住宅で2泊し、「めちゃくちゃ寒かった」という経験も積んだ上で引っ越してきた。
仕事で市内のあちこちの山林に入るようになり、管理がされていない所が分かるようになった。間伐が不十分で暗かったり、木が細すぎたり。豪雨による土砂災害のニュースに触れると、森林の防止機能の大切さを思い、補助金に支えられている林業の将来を憂える気持ちも湧く。
自然を満喫しながら、「地域の課題を知り、解決につながるようなことができれば」と考える日々を送っている。