憧れ追い続けたSLの写真展 安曇野の測量技師・藤原義春さん 11月12〜16日穂高で

「黒い勇者の記憶」と銘打った写真展が11月12~16日、安曇野市穂高交流学習センターみらいで開かれる。測量技師の藤原義春さん(74、同市豊科)が1972~75年、全国18路線で撮影した蒸気機関車(SL)の写真約60点を展示する。
子どもの頃に憧れたSLの撮影を始めたのは、21歳の時。高校を卒業し東京で就職、興味があったカメラを手に入れた。当時は高価で夜な夜な磨いたという。北海道出張の際、出合った1冊の写真集に衝撃を受けた。北海道の大地を走るSLー。かつての憧れを呼び覚まされた。近くの陸橋で最初の一枚を撮影した。
フィルムをデジタル化し、3年前に写真集を作成。今回は初の大きな個展だ。SLを追い続けた成果が並ぶ。

50年前の風景 一期一会の写真

室蘭本線、夕張線、只見線、石巻線、中央本線、肥薩線…。北海道から九州まで全国の18路線で1972~75年の4年間、藤原義春さんは、C11、C57、D51など活躍するSLの姿を撮り続けた。写真展「黒い勇者の記憶」には、撮影した千枚から選び抜いた約60枚を展示する。
「雪の志布志(しぶし)線」(末吉–岩北、74年)は、鹿児島に10年ぶりに降った雪とC56を捉えた貴重な1枚。「今日を越えて」(肥薩線、栗野–吉松、73年)という5枚の連作は、撮影ポイントが分からず線路沿いに40分ほど歩いてC57を撮影した。5枚目は帰りのSLのデッキから捉えた後ろ姿という。作品一つ一つに思い出がある。
藤原さんは日義村(現・木曽町)出身で、高校卒業後、東京の測量会社に勤務した。先輩を通して写真家の土門拳(09~90年)の作品に出合い、カメラを購入。当時15万円以上したといい、給料の半年分ほどをつぎ込んだ。

仕事の傍ら撮影 3年前に写真集

藤原さんがSLを撮り始めたのは72年。出張で出かけた北海道でのことだ。SLの写真集に出合い、「北の大地を走るSLに心を打たれた」。早速、苫小牧機関区の陸橋へ出向き、写真を撮った。
その後出張には必ずカメラを携帯、仕事の傍らSLを撮り続けた。撮影ポイントが分からず、線路に沿って歩いたこともある。ピントが合わない、露出の調整がうまくいかない−など苦労は多かったが、ただただ好きで、シャッターを切った。「うまく撮ろうといった欲は全くなかった。測量の出張なので2度目はなく、どれも一期一会の写真」と振り返る。
SLが消えると、撮ることはなくなった。だが5年前、勤務する会社の社内通信「思い出の写真コーナー」に載ったSLの写真に刺激を受け、50年ほど前に自身も撮ったことを思い出した。フィルムに残る千枚をデジタル化、3年前「少年の夢蒸気機関車を追いかけて」という写真集を作った。情熱を持って撮った作品を世に出したいという強い思いが、今回の写真展につながったという。撮影場所は、写真に残る建物や建造物を参考に、当時の地図や航空写真、ストリートビューを使って特定。測量技師ならではの視点だ。
煙のにおい、シュッポシュッポという音、汽笛、そして周辺の風景、人々の暮らしー。50年前が詰まっている写真ばかりだ。「力強さも哀愁も感じる。写真展を機に、SLファンとつながれたら。いずれは、多くの人が撮影したSLの写真展ができたら」と夢は広がる。
午前9時~午後8時(16日は5時)。藤原さんTEL090・7275・5450