少人数での学びの場を提供 若者の成長を支援 松本の高校講師・佐藤美保さん

信濃むつみ高校(松本市南松本1)非常勤講師の佐藤美保さん(同市)は今夏、少人数制で学びを提供する若者支援事業「BASIS(ベイシス)」を始めた。
「県内にこんな場所があったんだ」「空気がきれいでおいしい!」。10月初旬に催した自然散策ツアー参加者の言葉だ。新しい知識や体験が、“これまで知らなかった自分”にも出会わせてくれたようだ。
佐藤さんは東京から移住し、同校に20年勤めている。若者を取り巻く環境にさまざまな問題を感じるという。地方と大都市の格差、多様化するメディアによる偏った知識、便利さゆえの能力の低下…。「多感な時期に勉強以外のさまざまなことを知り、感じ、考えてほしい」。そんな思いを「BASIS」に込めた。

学びや経験「選択の幅広げる」

佐藤美保さんが企画する「BASIS」のプログラムは、県内外の施設や野外での活動など多岐にわたる。夏は新潟県糸魚川市でフォッサマグナミュージアム見学やヒスイ海岸でヒスイ探し、諏訪市の霧ケ峰高原で植物や昆虫の観察などをした。
今月7日に開かれた自然散策ツアーの舞台は、佐久穂町・小海町境の北八ケ岳「苔(こけ)の森」。16~18歳の男女5人が参加した。秋晴れの下、1泊2日でハイキングや紅葉を楽しんだり、ガイドからコケの解説を聞いたり。自然の美しさや、豊富な種類のコケに親しむ楽しさを満喫した。
コケ好きの本郷花奏さん(18)は「見たことのないコケが見られて、さらに興味が湧いた」。自然や科学に興味があるという山田穂高さん(18)は、「本やテレビで見たことがある情報でも、(現地に)出向かないと分からない、感じられないことが多く、楽しい」と毎回参加している。
「進路を考える上で、全く『知らない』世界に行こうとは思えないもの。新たな学びや経験は、選択の幅を広げる」と佐藤さん。プログラムをつくる際は、深い知識がなくても楽しめて、気軽に参加できる内容を意識しているという。

仲間と体験し社会性も育てる

佐藤さんは、ネーチャーガイドや企画・出版などの仕事を経て、信濃むつみ高校に勤務。松本で20年、生徒と接する中で感じることがあった。
大都市と地方の、学校以外の教育環境の地域格差や家庭環境による子どもたちの経験格差、偏った情報の収集などだ。都心では科学館や博物館に加え、多様な展示やイベントが身近にある。子どもだけで公共交通機関を乗り継いで移動することも日常的だ。車社会の地方では、子どもだけで能動的に動きにくい。
都市部と共通する若い世代の課題も。メディアが多様化した結果、テレビや新聞の情報よりもネットなどで自分の好きなことしか見ない・聞かないといった情報の偏りが起きている。検索して出た上位の情報だけで、知った気になってしまう若者が多いのではないか|。
何でもネットで調べられる時代だが、リアルな経験の不足から、いざ「何かやりたいことがあってもできない」若者の姿も見てきた。例えば、分からないことがあっても恥ずかしくて人に聞けない、どうしていいか分からない|などだ。
プログラムでは、同じ興味を持つ仲間と一緒に学び、考える。佐藤さんは「さまざまなプログラムを通して、社会性を身に付け、学びたいことや自分の得意分野を見つけてほしい」と願う。

BASISに参加した瀧澤結音さん(17)は、プログラムを通じて自然に興味を持った。「今では、自然と動物、人の在り方について考えるようになった。好きなことを調べるのが面白い」と学びたい分野を見つけた。
「人生いかに楽しく生きるかが大事」と訴える佐藤さん。「学校の授業や受験のための勉強以外でも、知ると楽しいことがたくさんある」
対象は原則15~25歳。プログラムの内容や日程などはウェブサイトに。問い合わせはTEL080・5547・2508