
蔵人みんなと特徴明確に
小野酒造店(辰野町小野)の杜氏(とうじ)・清都幸大(きよとゆきひろ)さん(53)と看板銘柄「夜明け前」は、ともに1972年生まれ。ただし清都さんは富山の酒蔵の次男坊。国内外で酒を造り、10年前に小野に来た。“同い年”の酒に出合い、その“らしさ”を磨き続けている。
富山県南砺(なんと)市にある若駒酒造場が実家。仕事をする杜氏の背中を見て育った。「オーラがあって格好良かった」。東京農業大で醸造を学び、大手酒造メーカーに勤めた後、東京の酒蔵へ。中国でも日本酒を造った。
塩尻市出身の妻との結婚を機に、松本市島立の亀田屋酒造店に入社。10年たった頃、小野酒造店から熱心な誘いを受けて移った。
ただ、「夜明け前」は名前を知っていたくらい。2年目に杜氏を任され、コンセプトを固めたいと思った。
「杜氏とはいえ一社員。社で目標とする酒を蔵人みんなと造りたい」。ここの酒の資質を話し合い、特徴を言葉にした。
香りが華やかで、味はすっきり、後口がさっぱりして、もう1杯と杯が進む─。こうまとまると、甘みやアルコール度数、香りの高さといったデータにして、現場に臨んだ。
2020年に国際的な品評会のインターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)でリージョナルトロフィーを受け、手応えを感じた。「麹室(こうじむろ)の癖をつかみきれたのかなと」
最新の設備で制御するものの、外気の影響はやはりある。澄んだ空気、季節ごとの寒暖や乾き具合…。小野の土地柄を生かせるようになっていった。
毎年、出来にどきどきすることは変わらない。だから、「おいしいと言われると飛び上がるくらいにうれしい」。憧れだった仕事で賛辞を受けると、「辞められない」。
【沿革】
おのしゅぞうてん 1864(元治元)年創業。明治期からの銘柄は「頼母鶴(たのもつる)」。島崎藤村生誕100年の1972年、その代表作「夜明け前」にちなむ銘柄を、島崎の長男・楠雄さんの許しを得て造った。搾りたてのフレッシュさを残すため火入れしないのが特徴。
【清都さんおすすめこの1本】
夜明け前 生一本 純米吟醸(720ミリリットル2090円)
【相性のいい料理】
タイのカルパッチョ、きのこ鍋
【連絡先】
小野酒造店 TEL0266・46・2505