木から見える未来づくり松本の家具職人・前田大作さんアルゼンチン先住民族と交流

自然の資源で物作り 意義考える

「家具職人として未来をどうつくるか─。そんな命題と真正面から向き合うことになった旅だった」
こう語るのは、松本市入山辺などに工房を持つ家具ブランド「atelierm4(アトリエエムフォー)」代表の前田大作さん(49、同市沢村)だ。
前田さんは9月下旬の約1週間、アルゼンチン東北部に位置し、世界最大の滝「イグアスの滝」があるミシオネス州に滞在。熱帯雨林の現状を目の当たりにし、現地の先住民族と交流する中で、自然の資源を使った物作りの意義を考えた。
20年以上にわたり、カラマツをどう家具材に生かすか─をライフワークにしてきた。遠い異国の地で「答え合わせもできた」と収穫を口にする。
前田さんが撮影した写真と共に、「木から見える未来づくり」に思いを巡らせる。

アーティスト招かれ 日本人2人目

家具職人、前田大作さんのアルゼンチンの旅は、同国のほかブラジル、チリでホテルを運営するAwasi(アワシ)グループの創業者が、数年前に発案したプログラム「アーティストイマージョン」の一環だ。
世界中のさまざまな分野のアーティストを同グループの拠点に招き、各地の自然や文化、伝統を体感。そこから得た刺激や感動を、創作活動に生かしたり、自然と人をどうつなげて未来をつくるかなどの課題に対する提言をまとめたりする。これまで約20人が招かれ、日本人は前田さんが2人目という。
7泊したアルゼンチンのミシオネス州は、ブラジル・パラナ州にまたがる「イグアスの滝」がある場所として知られる。広大な熱帯雨林が広がり、先住民族の「グアラニー」が、昔と変わらぬ暮らしを営む地だ。

全てを教わる覚悟 新たな道筋を

出発前、同プログラム担当者との打ち合わせで前田さんは、やりたいことをまとめた。熱帯雨林の伐採や再生など、現状を知ること。日本とアルゼンチンの木の違いと、木工の違いを知ること。そして「グアラニー」の生活を知ることだ。
中でもこだわったのがグアラニーとの交流。彼らは、自然界の力や精霊が、現実の世界に影響を与えるという信仰「シャーマニズム」に基づき、自然と共に暮らす。一方、日本からの訪問者は、自然と共に生活できなくなっている。
前田さんは、両者が向かい合って交われば「新しい道筋が見つかるのでは」と考えた。当初は日本からかんな、のみ、のこぎりなどを持参し、一緒に使ってみるつもりだった。だが、「日本の道具が進んでいることは明らか。それを示したところで何にもならない」と、先住民から全てを教えてもらう覚悟を決めた。

熱帯雨林の伐採「これ以上は…」

現地到着。まず熱帯雨林に入った。何万種という植物が育つ林の中で、目に飛び込んできたのが、木工家にとって「垂ぜんの的」という「ローズウッド」の巨木。前田さんも自然の姿を見るのは初めてといい、「命のオーラを感じた」。
林の中を車で走っていると、景色が変わり、真っ赤な大地が広がった。農地として開発された場所だ。「いくらコーヒーなどを栽培するためといわれても、ここまで伐採していいのか。コーヒーを飲みたくなくなる」。目に入る「広さ感」だけでも「これ以上切ってはいけない」と思わされる景色だった。

「戻る」こと繰り返す それが幸せ

ホテルから車で約15分。グアラニーの居住区がある。「どうして今も森と一緒に暮らせるのか」。前田さんが一番知りたかったことだ。
シャーマン(霊的指導者)という男性と初対面した。三つの質問をされた。「おまえの神は何だ」「日本にはいくつ民族がある」「親を尊敬しているか」。そこで自身の宗教観、家族観を答えた。シャーマンは、自然との向き合い方を聞きたかったのだと感じた。
もう一つ質問された。「日本の新年はいつだ」。グアラニーの新年は南半球に春が来る9月21日からだ。新年が始まって、季節が巡り、また春に戻る。この「戻る」という観念がこの民族の礎だと感じた。自然に身を任せ、同じことを繰り返す。それが「幸せ」なのだと。
「日本人は新年を迎え、新たな気持ちで成長や進歩しようと思う。これがあらゆる『欲』につながったかも」。自戒した。
話し終えたシャーマン。「じゃあ、僕たちの暮らしを見せるよ」と案内してくれた。

「針葉樹加工」魅力ある物に

約1週間の体験は、「家具職人として、どう未来をつくっていくかを考えさせられる旅だった」と前田さん。「答え合わせができた」とも思っている。
伐採された熱帯雨林の跡には、カナダ原産のマツが植樹されている。広葉樹に比べ成長の早い針葉樹を植え、パルプ材や建材として使うのだ。
目が詰まって硬い広葉樹は、木としての魅力はあるが、これ以上の伐採は難しい。これはアルゼンチンも日本も同じだ。「ならば針葉樹をどれだけ魅力ある物に仕上げられるかが、家具職人として未来へ続く道では」
日本には、古くから針葉樹加工の高い技術が伝わり、自身も20年以上、カラマツを「高品質な家具に仕上げる」ことに職人の誇りを懸けている。アルゼンチンの旅で、自分が正しい道を歩んでいると確信した。