
リアルを追求する細密画ではなく、シンプルな線や点を組み合わせておしゃれに|。そんな植物画の描き方を紹介した本「描いて楽しむ花の水彩」(SBクリエイティブ発行)が出版された。英国の水彩画家・ステーショナリー作家のハリエット・デ・ウィントンさんの著書を、日本画家で翻訳者の水野なおみさん(47、松本市寿台)が訳した。
花、葉、花や葉の飾り(リースなど)を40種以上取り上げた。副題が「軽やかに始める植物画のレシピ」とあるように、手順はもちろん画材、色の選び方なども盛り込んだ。
4年間の英国生活、美大出身、翻訳会社勤務|。水野さんのこれまでの経験が、全て生かされた形になった。「気軽に絵を描いて楽しむきっかけに」と期待する。
気軽に絵楽しむきっかけに
水野なおみさんが翻訳した「描いて楽しむ花の水彩」。原書は英国のハリエット・デ・ウィントンさんの最初の著書「NEWBOTANICALPAINTING」だ。英語圏で発行されているだけでなく、フランス語、韓国語など、世界各地で翻訳され好評という。日本語版は初めてだ。
本を開くと、画材や水彩画の基礎などが盛り込まれている。載っている花はバラ、アネモネ…。葉はユーカリ、ブナなど。リースやアレンジメントフラワーなども、描き方を丁寧に紹介している。
チューリップを見ると、「鉛筆で薄く茎を描き…」とある。色の選び方、筆運び、塗り方など、手順やポイントが分かりやすく盛り込まれている。絵に対するハードルがだいぶ低くなりそうだ。
現代アートの最先端の地へ
水野さんは大叔父が版画家で、ずっと版画に取り組んできた。美大進学は家庭の事情で断念したが、アートとの縁は切れず、制作を続けていた。現代アートの最先端の地に行きたいと渡英。語学留学の形でホームステイをし、旅行会社でも仕事をした。4年間の滞在で英語を習得、英国文化に触れる貴重な機会となった。画材店に入り浸り、知識を身に付けて今回の基礎をつくった。
帰国後、「どうしても美大に進みたい」とアルバイトで資金をため、武蔵野美術大(東京)の通信課程に入学。版画を志したが、途中から日本画を専攻した。卒業後、35歳で当時塩尻市にあった翻訳の会社へ就職。地元精密機器メーカーへの出向をはじめ、製品マニュアル作りを任されるなど活躍したが、2020年に退職した。
書籍の翻訳に初挑戦も悩む
「描いて楽しむ|」の翻訳の話をもらったのは昨年10月。翻訳ができること、アートに精通していることを条件に、出版社が翻訳者を探していた。英国で知り合った友人の紹介で、書籍の翻訳に初挑戦。英国の画材が分かったり、文化を知っていたりすることが、メリットになった。花が大好きという母、重子さん(78)の影響もあり、「植物には小さい頃から親しんでいた」と水野さん。
「日本人が迷わない、困らない翻訳を」という出版社の要求には、頭を抱えた。例えば原書の表現「紅茶をいれるくらいの時間」をどう訳すか|。英会話学校を営む英国人に相談し、「紅茶を煎(い)れて戻ってくる時間」とした。「紅茶をいれて、お皿を洗うなど何かすることが含まれている表現」と水野さん。
2カ月で翻訳、2カ月で校正と、短期集中で仕上げた。「水墨画、日本画に似ているので、日本人にはなじみやすそう。色使いもおしゃれで、気軽に絵と向き合えるのでは」と話している。
128ページ。2200円。TSUTAYA東松本店などで扱う。ワークショップなども予定。詳細はインスタグラムで。