
誠実な仕事で信頼関係築く
「義理人情や礼節がうちの会社にとって一番、大切なものです」。現代の経営者があまり言わなくなった言葉に力を込めるのは、電気工事業を手がける三協電気工業(松本市女鳥羽1)の百瀬友志紘社長(44)だ。創業110年を迎えた老舗企業の4代目は、人と人とのつながりがビジネスの「肝」としている。
同社の事業内容は、電気工事、通信工事、太陽光発電工事、一般家庭工事の4分野。
この中で圧倒的シェアを占めるのが、施設、建物などの配電設備の施工や照明、スイッチの取り付けなどの電気工事。その内訳は公共と民間工事が半々といい、脱炭素のための省エネ設備や災害時に使用する発電機や蓄電池の設置など、時代に即した仕事も増えている。
現在の年商は、社長に就任した2021年10月当時と比べて倍増。その理由について「仕事仲間が増えたことに尽きる」と、答えは明確。
これまでは、例えば現場監督が2人必要な場合、全てを自社の社員で賄っていたが、協力業者が増えたことで、人手の支援を受けることが可能に。これにより人員に余裕ができ、扱える仕事現場を増やすことにつながったという。
「仮に1年間、うそをつかずに、誠実に仕事をしていれば、その相手とは信頼関係が築ける。それを地道にやって仲間を増やした」
あらゆる職場で「人手不足」がいわれる中、「人との付き合いがその解決策になる」と、胸を張る。
社長就任前、こんなことがあった。仕事を発注してくれた大手商社の担当者にお礼をするため「アポなし」で会社を訪ねた。担当者は留守。代わりにその上司が慌てて面会に現れ、「わざわざ来てくれて、本当にありがとうございました」と頭を下げたという。
こういった人の態度を見続けるうちに、「自分がしてもらってうれしかったことを、相手にも全力でする」。この習慣が身に付いた結果として現状があるのだ。
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短大卒業後、会計士や税理士を目指して専門学校に通った。その時点で家業を継ぐつもりはなかった。
ところが当時、同社の経理を担当していた母方の祖父が病気になり、孫に「会社を手伝ってくれ」と頼んできた。「たくさん世話になったじいちゃんを助けなきゃ」。専門学校の就学期間を短縮し、同社に入社。跡継ぎになることも決心したという。今の経営スタイルの源流だ。
ももせ・としひろ1981年?松本市出身。松本工業高、東京理科大諏訪短期大(現諏訪東京理科大)卒。大原簿記 学校で2年間学ぶ。2003年、三協電気工業入社、21年、社長就任。