【戦後80年 石井柏亭 えがくよろこび】 #3 『中信酒客』(1953年 松本市美術館蔵)

信州代表する作家らに慕われて

日本近代美術史にその名を残す画家・石井柏亭(1882~1958年)。第二次世界大戦末期、松本の浅間温泉に疎開すると、制作の傍ら、信州の美術界の再興と発展にも尽力しました。中信美術会は、戦後、柏亭を中心に結成された松本市および周辺地域の作家たちによる美術団体で、本作はその会員たちをモデルに描いたものです。
1953年、中信美術展の会場にいた作家たちは、偶然訪れた柏亭にビールをご馳走(ちそう)になろうと画策し、市内のレストラン「鯛萬(たいまん)」に連れ出します。すると柏亭は絵を描きたいと言い出し、翌日から5日間「鯛萬」に通って彼らをモデルに作品を仕上げました。その間のビール代は、柏亭が快く支払ったそうです。
描かれているのは左から染色工芸家・三代澤本寿(もとじゅ)、洋画家・小林邦(くに)、洋画家・小平鼎(かなえ)、日本画家・上地瑛一郎、彫刻家・小林章(あきら)で、いずれも信州を代表する作家たちです。展覧会では、後に石井家から小平に送られたという同作品の下絵(MGプレスホームページに掲載)もご覧いただけます。
多くの人に慕われた柏亭。住居となった浅間温泉の旅館には、疎開作家や地元作家だけでなく、松本の文化人や近隣住民も日々訪れ、来客が絶えなかったそうです。(なかざわ・あき松本市美術館学芸員)

松本市美術館(中央4)で、松本ゆかりの画家・石井柏亭の回顧展が12月7日まで開かれています。同館学芸員の中澤聡(あき)さんが、展示中の作品から松本を描いた作品などを紹介していきます。毎週金曜日に掲載。同展については同館のウェブサイトに。