
白馬村北城の雨宮康平さん(50)は、道産子(北海道和種)の親子2頭と暮らす。人と馬が楽しく共働することや、馬を通じて資源を地域内で循環させることを試みている。現代技術と馬の力を融合し、馬との仕事や暮らしが現代の文化として根付く未来を切り開く。
ままならなくても心ほっこり
冬の足音が迫る昨年11月下旬。雨宮さんの元自宅を改装した貸し別荘「馬舎 楓」(北城)の庭で、アカマツの伐採が行われた。地元林業者が倒した高木の一部を、25㍍ほど離れた軽トラックの近くまで引いて運ぶ作業を担ったのが、母馬の楓(6歳)だ。
運搬用の馬具を装着した楓は、雨宮さんが引いてきても、ぐるぐる回って、すんなり仕事モードに入らない。「〝やだやだ〟の度合いが毎回違う。今日はレベル8くらいかな」
従順になった証拠だという頭が下がったところで、運搬する幹や枝を金具に取り付ける。「じゃあ行ってみようか。ひーだり、まえ」。雨宮さんが後方から手綱と声で合図する。楓は勢いよくスタートし、角を曲がって丸太の橋を渡って進んだ。
「すごいの(荷)を引っ張ったやん! みんなすごいって言ってくれているよ」。雨宮さんが優しく声をかける。スピードの加減がつかめず、カーブで荷が接触して柵が破損するハプニングもあったが、周囲は動じない。「そうそう、ゆっくりでいいよ」。繰り返し声をかけると、安定して仕事した。
馬に荷物を引かせる馬搬。雨宮さんは楓の体重約350㌔に適した重さ以上の荷は無理して引かせない。「楓にはこれくらいの仕事は肉体的には楽勝。でも今日は久しぶりの馬搬で精神的にいっぱいいっぱい(笑)」。今は雨宮さんが「できる」自信を整え、繰り返して覚えさせていく。「人間が折れたらそこで終わりです」
伐採を担当した萬代泰和さん(43、神城)は、木材搬出などで何度か楓とタッグを組み、馬との仕事に興味を持つ林業者の一人だ。「機械の性能は今以上にはならないが、馬は今よりもっと〝うま〟くなる可能性がある」と笑う。
人の方も気持ちがうまくほぐれる。例えば、突如として草をはむ様子にほっこり。「機械化の時代で忘れ去ったことを思い出させてくれて、馬と仕事をすると、おおらかになる」

地域とつながり新たな文化を
雨宮さんは兵庫県出身。10代から単身、米アラスカ州で暮らし、アウトドアに親しんだ。草創期のスノーボーダーとして活躍し、20年ほど前に白馬に移住した。
身内や親戚には馬の調教や厩務に携わる人が多く、「馬というキーワードが頭の片隅にはあった」。飲食業などを経て、2021年、北海道の牧場から2歳の楓を迎え、馬との暮らしを始めた。翌春、楓のおなかに宿っていた雌馬が誕生。「ユニ子」と名付けた。
雨宮さんは、林業者でも農業者でもない。「馬方」を自認し、馬房の掃除、堆肥の配達、飼料の調達などで、日のほとんどは馬と過ごし、馬のために動く。自宅の庭造りや2頭の放牧地からのふんの運び出しといった、DIY感覚の〝カジュアル馬搬〟にも取り組んでいる。
一方で、「楓企画」という屋号の個人事業主として、馬との暮らしを現代に即して楽しみながら持続的に送れるよう、馬個々の性格や資質に適した仕事を探し、つくり出す実験を続けている。イベントや祭事の乗馬や神馬の仕事を引き受けたり、馬と仕事をしてみたい初心者向けワークショップを開催したりする一方、地域の林業者や農業者らと連携して馬搬や馬耕にも挑戦している。
「この子たちは、暮らしのバランスをすごくスローにしてくれる」と雨宮さん。機械や人力でこなす方が早く済むかもしれない。「でも、馬と一緒の方が達成感があり、運搬物や産物に付加価値も付く」と意義を語る。
今冬には、「馬舎 楓」の営業が本格化する。一面ガラス張りの室内からは、馬がのんびり過ごす庭が見下ろせる。希望する客に、馬がいる光景を見せることも2頭の仕事になる。
被毛が白く、「白馬生まれの白馬」のユニ子(3歳)は、アイドル的な存在だ。きゃしゃな体つきで馬搬や馬耕には向かないが、人懐こくて乗馬や触れ合いで活躍する。「ユニ子にしかできない仕事がある。癒やし担当として、今年は正式な仕事デビューの年になるかな」
馬と共に目指す資源の地域循環
雨宮さんは、馬と共に行う資源の地域内循環も目指している。
2頭が過ごす馬房に敷くのは、県産材のおがくず。スノーボードの製作過程で出たもので、自身がスノーボーダーだった縁で仲間から引き取る。おがくずと馬ふんを混ぜて仲間の畑で肥やしに利用。そこで育つ植物や農産物の一部は馬の飼料になり、食べた馬は地域の里山整備に働き、その山の材が製品に活用されるという流れだ。
2頭の飼料には、地元こうじ店のしょうゆの搾りかす、ブルワリーのモルトかすも混ぜる。いずれも廃棄されるものを引き取っている。
白馬村では昭和30年代ごろまで多くの馬が飼育され、市も開かれていたという。今でこそ馬の姿は少なくなったが、村名も含めて馬との関わりが深い土地柄だ。雨宮さんは「農林業、製造業、宿泊業、アクティビティーなど、馬を通じてみんながつながり、人と馬が暮らしやすい文化を地域に根付かせ、新たな活動が生まれてくればいい」と願い、地道に歩みを進めるつもりだ。
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「馬舎 楓」の問い合わせはインスタグラム。