
馬が名に付くモンゴルの伝統的な弦楽器「馬頭琴」をご存じだろうか。馬頭琴の由来にまつわる「スーホの白い馬」の物語を、小学校の教科書で読んだことがある人も多いかも? どんな楽器なのか、国内で唯一馬頭琴を製造販売する「オフィス・ドルチェ」(松本市梓川倭)の武田芳雄さん(74)を訪ねた。
絶妙な曲線で独自の響き
ユニークなアイデアのオリジナル楽器が多数並ぶ武田さんの工房。「本場モンゴルの馬頭琴をできるだけ再現しています」と紹介してくれた楽器は、その名の通り、ネックの先端に施された馬の頭の木彫りが印象的だ。台形のボディーに2弦だけのシンプルな作りで、弦と弓には馬の尾の毛が使われている。
「弦を上から押さえるのではなく、横から触って音階を調節します」と説明しながら、武田さんが「見上げてごらん夜の星を」を弾いてくれた。温かみのある素朴な音色は伸びやかで、どこか懐かしさを感じさせる。ボディーにはマホガニー材と木曽のヒバ材、ネックにマツ材を使い、手作業で一から削り出している。
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馬頭琴はモンゴルの遊牧民に古くから伝わる擦弦楽器で、かつては弦と弓には馬の尾、ネックは馬の骨、ボディーは馬の皮が使われていたという。時代とともに木材が使われるようになったが、モンゴルでは裕福な家庭が所有する一種のステータスシンボルでもあったという。
武田さんは「馬頭琴は野太い低音が魅力だが、伸びやかな高音も出るようにしたい」と、ボディーを削り出す時に、絶妙な曲線を持たせることで独自の豊かな響きを実現。馬の毛は湿度に影響されるため、オーケストラなどで使われることはほぼないが、個人で馬頭琴を楽しむ人向けに演奏指導もしている。
「スーホの白い馬」朗読しながら演奏
武田さんは愛知県出身。大学で電気工学を学び就職したが、音楽に携わる仕事がしたいと、20代半ばで木曽にあった楽器製造会社「鈴木バイオリン社」に転職。かんなの使い方などを一から学び、弦楽器製作の技術を磨いてきた。50歳で独立後、工房を立ち上げ、代表作「エンジェルスハープ」などオリジナル楽器を多数生み出している。
武田さんはこれまで県内各地の小学校に呼ばれ、「スーホの白い馬」を朗読しながら馬頭琴を演奏してきた。「馬頭琴の音色は叙情性のある曲に向いています。絵本は知っていても楽器は見たことがないという人も多いので、オファーがあればこれからも子どもたちのところへ演奏に行きたいですね」と笑顔を見せる。