【特集・馬と人~ともに歩んで~】信州の馬肉食文化―松本市内で味わえる2店と家庭料理

長野県や熊本県では古くから馬肉を食べる文化があり、その始まりは年老いた農耕馬を食べた、食糧難に陥って─など諸説ある。馬肉は高タンパクで低カロリー、鉄分やミネラル類、不飽和脂肪酸が多くヘルシー。女性にも人気だ。松本市内で味わえる2店を訪ねた。

部位に合う調理法 職人が腕ふるう 馬肉バル新三よし松本本店

冬は「さくら鍋」お薦め

馬肉(さくら)バル新三よし松本本店(中央1)は、創業1899(明治32)年という馬肉専門の居酒屋。職人が焼き、揚げ、煮込み、刺し身といった部位に合う調理法で、おいしく食べられるように調理する。
冬のお薦めは「さくら鍋」(3850円)。肩ロースを使い、信州産のキノコ、ネギ、豆腐などが入り、しょうゆとみそがベースになった甘辛いたれで煮込むすき焼き風。ボリュームたっぷりで、生卵(110円)にくぐらせると「味変」が楽しめる。
刺し身は希少部位も味わえ、ヒレ肉の中でも特に上質なシャトーブリアン(3300円)なども。他にもさくらヒレステーキ(2200円)、アキレス唐揚ピリ辛南蛮酢(880円)といったメニューが人気で、脊髄を揚げたさくら白子天ぷら(880円)は、食感が魚の白子のようだという。
馬肉をいろいろな食べ方で味わえる、桜づくしコース(4950円)も。高山浩邦店長(45)は「産地にこだわらず、その時仕入れられる良い物を仕入れて提供している」。
午前11時半~午後2時、5~10時。不定休。TEL0263・39・0141

国産にこだわった豊富なメニュー そば居酒屋 蔵のむこう

郷土料理「おたぐり」も

そば居酒屋 蔵のむこう(中央1)は、北海道和種馬「道産子」など、100%国産馬を提供する。国産にこだわるのは、「肉質がよく柔らかい、臭みもないおいしい肉を食べてほしい」という同店を運営する「酒楽」の磯尾広志代表(55)の思いからだ。
全身ほぼ赤身できめ細かな肉質が特徴のサラブレッドは馬刺し、脂が多い道産子はすき焼きなど、馬の種類や部位によって料理法を変える。
馬の腸を煮込んだ伊那谷の郷土料理「おたぐり」(800円)は道産子を使い、ぷりぷりの食感が特徴。希少部位のレバーは、ごま油と塩こしょうで食べるのがおいしいという。
「馬は牛や豚と比べて体温が高く、雑菌が繁殖しにくい。レバーは生でも食べられる」と磯尾代表。
メニューは豊富で、少し甘めの特製ソースで食べる馬肉メンチカツ(千円)も人気。
午前11時半~午後2時半、5時~11時半。不定休。TEL0263・36・7880

家庭料理も シネマコラムニスト・合木こずえさん一家

母が作る栄養満点すき焼き風「桜鍋」元気出るごちそう

塩尻市大門四番町で映画館「東座」を営む合木こずえさん(66)と妹のかなえさん(64)にとって、母・節さん(88)が作ってくれる「桜鍋」(馬肉のすき焼き風)がとっておきのごちそうだ。幼い頃から、すき焼きといえば馬肉。誕生日や祝いの日にたびたび登場するメニューだ。
合木家のレシピは、しょうゆ味の割り下で、「馬中肉」(肩やモモなど)を使用。馬中肉は赤身とほどよい脂が特徴で、肉のうまみと歯応えが味わえ、桜鍋に合うという。酵素の働きで肉を柔らかくするマイタケを欠かさず、春菊、ネギなどと煮込み、溶き卵と食べる。
割り下の甘みには黒糖を使い、カツオと昆布で取っただしを加えることで、こくとまろやかさがマッチした味に。かなえさんは、「母の桜鍋は煮込んでもしょっぱくならない。長時間食べていられるわが家の味」と笑顔。野菜の酢漬けなどさっぱりする副菜を添えるのも節さんのこだわりだ。
馬肉は東座隣の精肉販売店「三河屋」で購入。「馬肉が新鮮で切り方も上手」と節さん。常時、販売している馬刺しのファンでよく購入しているほか、すき焼き用など、特別な場合は予約すると準備しておいてくれるのがありがたいという。
節さんは家族の健康を願い、栄養バランスが良くおいしい料理を心がける。翌日に大切な仕事があったり、力を付けたりしたい時には馬刺しを食べる。「馬肉を食べると本当に元気が出るんです」とこずえさん。「大学進学で上京した時、連れて行ってもらったすき焼き店で牛肉が出てきて驚いた」という。
「定番のおいしさ」と口をそろえる、こずえさんとかなえさん。「料理は愛情。おいしく食べて元気になってもらうのが一番」と節さんはほほ笑む。

教えて!馬肉の豆知識

馬肉に関するちょっとした豆知識を食肉卸売業「クボタ」(塩尻市広丘野村)代表の久保田浩史社長に聞いた。

■栄養や健康効果は?
肉や豚肉と比べると低カロリー、高タンパク。ダイエットや筋力トレーニング、健康志向の人にも適しています。鉄分を多く含むので、貧血予防の効果も期待できます

■生で食べられるのはなぜ?
馬の体温は約40度と他の家畜より高いため、腸管出血性大腸菌O157などのような雑菌類が存在しにくいという特性があります。そのため、「馬刺し」として生食する文化が根付いています

■産地は?
日本で食べられている8割ほどは外国産です。国産は北海道のみ。うちは主にカナダや南米、ポーランドなどから輸入しています。円安の影響で価格が高騰しています

■なぜ「さくら」肉と呼ぶ?
新鮮な馬肉は赤みが薄い、切った時の色が桜色のように見えたなど諸説あります

■どんな料理がある?
馬肉はヨーロッパなどでもよく食べられています。日本では馬刺しや桜鍋などが一般的ですが、カルパッチョやステーキなど洋風料理にも合います

■馬肉の部位
・タン・・・焼き肉、燻製(くんせい)
・ホホ肉・・・煮込み、チャーシュー
・こうね脂(タテガミの下の部分)・・・刺し身
・肩ロース・・・すき焼き
・ロース・・・すき焼き、しゃぶしゃぶ、馬刺し
・肩肉・・・すき焼き、馬刺し
・バラ・・・焼き肉、すき焼き、バラ刺し
・スネ・・・煮込み、チャーシュー
・モモ・・・馬刺し
・ヒレ・・・ステーキ、馬刺し