
まつもと市民芸術館(松本市深志3)舞踊部門芸術監督の倉田翠さん(38)が、松本少年刑務所(同市桐3)で受刑者のクラブ活動「身体表現クラブ」に取り組んでいる。2024年度の着任から、受刑者と身体表現を通じて対話を重ね、4月にはその体感を基にした新作ダンス作品を上演する。クラブの様子や作品について話を聞いた。
―「身体表現クラブ」とは。
松本少年刑務所には、受刑者の情操教育や社会復帰支援の一環でクラブ活動の時間があります。身体表現クラブはその一つで、毎月1回1時間、体を動かしています。主に20代の男性7人ほどが参加しています。1年で終わる人が多いですが、2年続ける人もいます。
―きっかけは。
芸術監督団は、市民により開かれた劇場を目指して未知の領域にも挑戦しています。
松本少年刑務所は教育的処遇に取り組んでいます。私は芸術監督就任前、京都で薬物依存症リハビリ施設の入所者とダンス作品を作った経緯があり、それを生かして何かできないかと芸術館側から刑務所に交渉し、クラブ活動に参加することになりました。
慈善活動や更生の手助けではありません。受講者には「社会的な善悪では見ていない。対等な関係です」と伝えています。
―クラブの様子は。
最初に各自が近況を話した後、体を動かします。振り付けを覚えるような内容ではなく、日常の動きをとてもゆっくりにしてみたり、他人の体を動かしたりします。
普段の緊張から少し体を緩めることによって、その人の本質的な部分が見えてくるような気がします。警戒心のある体や顔が変わり、他人を一生懸命見るようになったと感じます。新鮮で素直な身体の動きは、素晴らしいダンスを毎回見ているよう。私が勉強させてもらっています。
皆さん生き生きしています。でも、彼らを許せない人がいることも事実です。
―新作「娑婆 身体表現クラブ」とは?
まず、出演者は刑務所内のメンバーではありません。クラブの様子の再現でもありません。彼らとの時間を経て体感したことを基に、身体表現で再構成します。
出演は演出家や現代アート作家、「劇団野らぼう」の前田斜めさん、劇団「シアターランポン」の堀田康平さんなど。それぞれが持つ、表向きではない複雑な面、生々しいその人の存在とか体とかが立体的に見えれば―と思います。
「娑婆」は、刑務所や拘置所などの収容施設にいる人から見た、外の自由な一般社会のイメージとして捉えがちですが、本来は「苦しみに満ちた耐え忍ぶべき世界」という意味です。そういう世界で私たちが正しく生きていくことの難しさ、その正しさとは何か? 自分がこちら側だと引いているボーダーラインのあいまいさに向き合えればと思っています。
作品名から抱く想像と全く違うかもしれません。想像との違いは私も刑務所で体感しました。最初はとても緊張したし言語化できなかった。受刑者との活動は思っていたより美しく、薄いガラスを触るような緊張感があります。それを抽出できるような繊細で美しくてはかなくて、すごくきれいな作品になればいいなと思っています。
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「娑婆 身体表現クラブ」 4月18、19日午後2時、まつもと市民芸術館小ホール。一般2千円、25歳以下千円。同館チケットセンター0263・33・2200