
安曇野市は2月、「子ども・若者のSOSの受け止め方」と題した講演会を市豊科交流学習センターきぼうで開きました。講師は信州大学術研究院教育学系准教授で3人の子どもを育てる茅野理恵さん。話の一部を紹介します。
評価や否定せず関わり切らない
私たち大人が育った時代と現代との最大の違いはSNSの普及。人間関係は学校だけで完結せず、24時間つながり続けます。比較の対象も、クラスや近所から世界規模へと広がりました。
「親ガチャ」という言葉に象徴されるように、家庭環境に対する不満や諦めを抱える子どもも少なくありません。こうした背景を理解しなければ、子どもの苦しさに本当の意味で近づけない。近年、「SOSの出し方教育」の重要性が強調されています。もちろんそれも大切ですが、大人がSOSに気づき、受け止める力を持つことが同じくらい重要です。
実は子どもたちは日常の中で、さまざまな形でSOSを発しています。ただし、必ずしも分かりやすい言葉とは限りません。作品の中に表れる死への言及、絵や文章に込められた暗い世界観、「学校に行きたくない」という言葉の裏側にある思いなど、注意深く見なければ気づけないサインもあります。大人が思っている以上に、子どもは本音を語っていないことを前提にする必要があります。
自傷行為についても誤解が少なくないです。リストカットや市販薬の過量摂取「オーバードーズ(OD)」は「かまってほしいからやる」と受け取られがちですが、実際には苦しさを自分なりに何とかしようとする対処行動である場合が多い。研究では、自傷直後に脳内で鎮痛作用が生じることも報告され、一時的に「楽になる」感覚があるために繰り返されることがあります。
「もうやらないと約束しよう」と大人が言いたくなることもあります。でも代わりの対処法がないままやめさせようとすると、約束を守れなかったときに自分をさらに責め、自己否定を強める可能性があります。最も大切なのは、「話してくれてありがとう」「どんな気持ちだったの?」と評価や否定をしないで受け止めること。目的は行為を止めることだけではなく、「また話しに来てもらえる関係」を築くことにあります。
ODも同様で、背景には「気分を変えたい」「頭の中の苦しさを止めたい」「一瞬でも楽になりたい」という切実な思いがあります。入手しやすい一方で効果の予測が難しく、臓器障害や命に関わる危険もあります。最優先すべきは、つながりを切らないことです。
ゲームについても同じことが言えます。長時間プレーしているからといって、すぐに依存とは決めつけられない。本当に問題なのは、日常生活が成り立たなくなっている、やめたくてもやめられない、そして現実から逃れる唯一の手段になっている場合です。ゲームを取り上げる前に、その子が何から逃げているのか、どんな苦しさを抱えているのかを理解しようとすることが必要です。
最大限の支援は孤独減らすこと
子ども期の逆境体験「ACE」(虐待やいじめ、家庭不和など)は、その後の心身の健康に大きな影響を及ぼすことが知られていますが、同時に保護的体験があれば悪循環を断ち切ることができるとも言われています。親以外でもよいのです。本気で気にかけてくれた大人が一人いた、安心できる居場所があった、自分を理解しようとしてくれた人がいた…。その体験は将来にわたり大きな力になります。
さらに「傾聴」とは、人の気持ちは完全には分からないという前提に立ち、それでも分かろうとする姿勢を持ち続けることです。「どう感じたの?」「どんな思いがあったの?」と丁寧に尋ねることが、「分かってもらえた」という感覚につながります。すぐに解決できない悩みも多くありますが、そのとき大切なのは、解決を急ぐことではなく「一緒に考えさせてね」と伝えること。孤独を減らすことこそが、最大の支援になります。
子どもの問題行動は「困った子」ではなく、「困っている子」からのサインです。目の前で大きな変化が見えなくても、関わりは確実に子どもの中に残ります。否定せず、評価せず、まずは聴き、つながり続けること。それが子どもにとっての保護的体験となり、未来を支える力になります。