
「地域に伝わる民話を後世に残したい」。江戸時代、善光寺街道の間の宿として栄えた筑北村の乱橋地区。この山間部にある歴史的な集落には、古くから語り継がれてきた民話がいくつもあるという。同地区の住民でつくる「すず菜会」は、地元の民話を題材に手作りの絵本を制作した。
制作した絵本の題名は「橋姫とおこやさま」。戦国時代、当時の乱橋地区にあった小さな山城の城主と、その姫を巡る物語で、地域に伝わる民話や古文書をひもとき、子どもたちにも分かりやすいようにアレンジした。
物語は、敵兵の襲撃から逃れて山奥で出産した姫が、自身の分身ともいえるへその緒を乱橋地区の寺に送り、そこの住職が祠を建てて祭るというのが粗筋。
今も同地区内に残っているこの祠は、かつては「安産の神様」として信仰を集めていたという事実も織り交ぜた。
出来上がった絵本は、表紙に手触りの良い和紙を使うなど、細部までぬくもりにあふれている。絵と文章は同会代表の中村恭子さん(78)が担当。絵の色付けや製本はメンバーが協力して行い、合計8冊を仕上げた。
村共同募金活動助成金を活用し、昨年7月から制作を開始。今年3月に完成し、4月には村内の図書館や小中学校へ寄付。読み聞かせなども行った。
制作のきっかけは、同会の最高齢、西澤徳江さん(94)の切実な思いだった。乱橋で育ち、祖母や母から民話を聞いてきた西澤さん。「私がいなくなれば、語り継ぐ人がいなくなってしまう」
この言葉の重みを受け取った会のメンバーが「形にして残そう」と立ち上がった。
歴史好きの小林正樹さん(88)は「一度聞いただけでは忘れてしまうが、絵本で記憶の片隅に残してほしい」と次世代へ期待を寄せる。
同会は、「地域に開かれた、にぎやかな場所をつくりたい」と8年前に結成。現在は60代から90代の9人がメンバーで、月に1度、みんなで集まるのが恒例行事。集まれば、話と笑い声が絶えない。22日の集まりでは、ちらしずしを作るなど、季節によってタケノコご飯やおはぎを手作りし、情報交換や昔の村の様子などを語り合いながら、一緒に食べる時間を楽しんでいる。
中村さんは「1人ではできなかったけれど、みんなが協力してくれて形になった。多くの人に読んでもいたい」。生まれ育った地域を愛する思いが、歴史を守る大きな原動力になった。