
本の感想を語り合いながら自分を見つめ直す。そんな読書会「二十年教室」が毎月、松本市内で開かれている。参加者から「本当の自分を考える機会になった」と好評だ。
福祉事業所職員の島田政輝さん(46、里山辺)の主宰。誰でも参加可能で、毎回4、5人が集まる。あらかじめ島田さんが選んだ小説やエッセーを読んでおき、当日は自己紹介の後、島田さんが用意した質問に一人ずつ答える。
島田さんは参加者との対話に「あなたにとって自由とは」などの深い問いを織り交ぜ、相手の思考を自身の心の内へと向けていく。
参加者は最初こそ緊張で言葉も少ないが、次第に自分を語り始める。島田さんが上手に誘導できる理由。意外な経歴の中にその答えがあった。
演技知識が心の内引き出す鍵
「竜巻で家が吹き飛ばされた後に海でサーフィン。主人公は全てを失った代わりに自由を得たのだと思いました」
3月22日、松本市あがたの森文化会館で開かれた「二十年教室」。主宰者の島田政輝さんと、同市や安曇野市などの女性5人が、「ムーミン」の作者として知られる作家トーベ・ヤンソンの短編「この世のおわりにおびえるフィリフヨンカ」の感想を話し合った。
海辺の一軒家に独りで住み、大災害の到来を恐れる女性が主人公。島田さんは敬愛するヤンソンの作品を選び、事前にメールで5人に全文を配布した。
それぞれの感想を聞いた島田さんが「では自分の心の内を言葉にしてみましょう」と穏やかに切り出し、「皆さんはいつ自由を感じますか」と問いかけた。「車を運転しながら好きな歌を大声で歌っている時」という発言に笑いが起き、知らない者同士の硬かった雰囲気が和んだ。
次に島田さんが「では不自由と感じるのは」。今度は別の人が自分の体験を具体的に説明した上で、「自分の感情が怒りに支配された時。他者の自由を尊重しないと自分も不自由になる」と答え、全員が賛同した。
こんなやりとりで2時間の会が終了。無理に話す必要はなく、聞き役に徹する人もいた。毎回参加の女性(58)は「感想がみな違っていて面白いし、自分の考えを話せてすっきりした」と振り返った。
島田さんは大の本好きで2年前、長男が通う幼稚園の保護者を対象に読書会を初開催。参加者の感想の奥に潜む感情にも話を向けた。すると回を追うごとに、参加者が過去に味わった感動やつらい体験を語るケースが増え始めた。共通していたのは「隠していた本当の気持ちを言葉にしたら、ありのままの自分と出会えた」という喜びだ。
島田さんは「読書会は自分と向き合う場」と意義を発見。昨年1月、園外で新たな読書会を始めた。それが「二十年教室」だった。
島田さんは演劇に精通し、プロ、アマの俳優に演技指導をした経験を持つ。読書会参加者は「島田さんが上手に言葉を引き出せるのはなぜ」と不思議がるが、本人は「マイズナーテクニックというアメリカの演技法を習得したおかげ」と話す。
どういう演技法か。「一言で言うと、相手のせりふを聴き、奥に秘めた感情とつながることを目的とした演技法です。読書会でも皆さんの言葉に耳を傾け、どんな心情が隠されているのか想像します。心の扉をノックするように質問し、自ら扉を開けるのを待つのです」
いつか実現させたい読書会がある。「ろう者との読書会です。聞こえない人と聞こえる人が本を通じて互いを知り、つながる場をつくりたい。実現のため松本市の手話奉仕員養成講座を修了しました。次は中級講座に通います」と笑顔で語った。
5月の「二十年教室」は24日午前10時~正午、午後2~4時の2回、あがたの森文化会館で。定員各5人、参加費千円。申し込みはメールnijunenkyoshitsu@gmail.comかインスタグラム「二十年教室」から。