
適切な時期に将来の準備
「プレコンセプションケア」を知っていますか? 適切な時期に性や健康に関する正しい知識を持ち、妊娠・出産を含めたライフデザイン(将来設計)や将来の健康を考えて健康管理を行うことです。小児科医としてその重要性を呼びかける今村柚紀子さん(63、松本市)に話を聞きました。
─プレコンセプションケア(プレコン)とは?
「プレは『前』、コンセプションは『受胎』で、妊娠前のケアという意味です。世界保健機関(WHO)は2012年、周産期・妊産婦の死亡率を下げるため、『妊娠前の女性とカップルに医学的・行動的・社会的な保健介入を行うこと』という概念を発信しました。
ですが、周産期・妊産婦の死亡率が世界最低水準を維持する日本で、なぜプレコンが必要なのでしょうか。それは、①若い女性の栄養問題②若者のヘルスリテラシーが低い③妊娠リスクの高い女性の増加─が理由です」
─なぜプレコンを普及させたいのですか?
「気になり始めたのは、日本の2500㌘未満で生まれる低出生体重児の割合が世界の中でも高く、10%前後で高止まりしている現状を知ってからです。低出生体重児は、糖尿病や心疾患など成人病の発症リスクが高いことが最近明らかになりました。10人に1人が成人病予備軍の可能性があるのです。
低出生体重児増加の原因は、若年女性の痩せ(低体重・低栄養)の増加と、高齢出産の増加が関係すると考えられています。プレコンの啓発が重要な鍵だと思います」
─かつての常識と変わったことは?
「かつては妊娠後の体重は10㌔を超えると妊娠中毒症の発症リスクが高まるといわれ、厳しい体重制限が行われていましたが、現在は妊娠前の体格に照らし合わせ、標準体重では10~13㌔増を目安とします。また、神経管の閉鎖が受胎後おおよそ28日で完成するため、神経管閉鎖障害(二分脊椎など)のリスク予防には、妊娠前から葉酸を取ることが大切です。
さらに月経困難症は我慢するものではなく、ちゅうちょせずに専門家に診てもらいましょう。行きづらいかもしれませんが、思春期外来のある病院もあります」
─呼びかけたいことは何ですか。
「主に三つあります。
一つは『若年女性の痩せに注意』。肥満が良くないことは認識されていますが、痩せが良くないことも分かってきました。日本はSNSやメディアを通じて『痩せ=美』の価値観が浸透し、特に若年女性で食事制限を中心にしたダイエット志向が強く、エネルギー摂取量は年々減少しています。
痩せには多くの健康リスクがあります。骨密度や筋力の低下、月経周期異常、糖尿病などがあり、美容面でも肌や髪の質が低下します。特に思春期の女の子は注意が必要です。ふっくらするのが普通の時期に、周囲の『ちょっと太った?』の何げない一言で食事制限をしてしまう、スポーツを頑張る子は消費量に摂取量が追いつかず無月経になってしまうこともあります。親世代も正しい知識を知ってほしいです」
「二つ目は『妊娠適齢期を知ろう』。社会で安定したポジションを得た30代後半に、子どもが欲しいと思う人も多いでしょう。
しかし、卵子の数には限りがあり、年とともに流産率や周産期死亡率、低出生体重児の割合は増加し、男性の妊娠能力も低下します。生物学的に妊娠適齢期は20代です。若者だけでなく社会が認識し、ちょうど良い時期に子どもを産んで、キャリアが積めるような環境が必要です」
「三つめは『感染症について正しい知識を持とう』。20代の性感染症報告数は年々増加し、リテラシーの低さを感じます。
プレコンは妊娠・出産ありきではなく、誰もが子どもを持つか持たないか、どんな人生を歩むかを自由に決められ、そのために正しい知識を身につけ必要な準備を整えようという考え方です。
日本は医療や社会保障に恵まれ、若者が自分の体に向き合う機会が少ないまま社会に出てしまいます。プレコンが当たり前に認識される世の中になってほしいです」
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今村さんは、プレコン普及のため講演依頼を受け付けています。問い合わせは松本市医師会事務局(TEL32・1631)へ。プレコンを紹介する子ども家庭庁のウェブサイト。
【いまむらゆきこ】 東京都出身。横浜市立大医学部卒。神奈川県内の病院で小児科医として勤務し、1993年、長野県出身の夫と共に松本市へ。2人の子育てをしながら信州大医学部小児科に勤務、99年「今村こどもクリニック」開院、2025年閉院。現在は乳幼児健診、小児科内科夜間急病センター、園医・学校医などに携わる。